お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

100歳のおばあちゃんと48の私の冒険 2

部屋に入って、椅子を勧めようと、その上にかけてあった自分の寝間着を畳もうとする。

「いいよ、こっちに座るから」

ベッドに腰掛け、二人並んでブドウを食べた。果糖が入れば少し、シャッキリするかと様子を伺うが、どうも、会話のテンポがずっこける。母の近況を言えば、興味を示すかと思い、話してみるが、帰ってくる返事にキレがない。あぁそうなの。そう。それはいいわね。こんなの違う。

私がベッドに寝っ転がると、祖母も体を横にした。

小さく息を刻むように、ハァッハァッとしているので「苦しいの?」ときくと「いやっ苦しくないよ」。

「でもね、もう、何にもできない。何にもできなくなっちゃって、ダメだね。運動してないから」

ここにも運動の時間も歌の時間もある。だが、その時一番張り切っているのが、いちばんの長齢の彼女で、他の人はみんな、車椅子の上で腕だけ動かし、声も小さい。ホームに入る前はゲートボールに俳句に庭の草花にとじっとしていなかった人なだけに、ここの仲間と穏やかな暮らしは物足りないのかもしれない。

「ベランダ、出てみる?」

「ベランダ?」

一瞬、目が大きく開いた。光った。

「いいよ、いいよ。よすよ」

「大丈夫だよ、怒られないよ。私が一緒に歩くから、行こうよ、外」

「そう?じゃぁいくかっ。」

よしっ、乗って来た、それでこそおばあちゃん。

「立てる?捕まって」

普段はそんなこと言わないが、さっきまでのフラフラが頭にあるので手を貸そうとすると

「大丈夫よっ、これくらい、一人で立てるわよっ」

ムッとして手を払って、起き上がり始めた。

よーし。よしっ。そうだ、行こう!

 

100歳のおばあちゃんと48の私の冒険 1

昨日、老人ホームにいる100歳の祖母のところに行った。

四階のエレベーターホールからみんなで食事をするリビングに 入っていくと、いつものように、机に突っ伏して寝ていた。両隣におじいさんが二人。あとはそれぞれ自分の部屋にいるらしくいつもよりシンとしている。ちょうど昼ごはんが終わった頃のようだった。

驚かないようにそっと、肩に手をやる。隣のおじいさんと、いつもびっくりするからね、大きな声出すからねと、笑いながら、トントントン。トントン。

眠りが深かったようで、顔を上げて、しばらく前をじっと見つめている。肩を叩かれて目が覚めたとは思っていないようだ。もう一度、型に手を当てて「こんにちわ」という。

「あらぁ驚いた!」

いつものように目を大きく開いて、胸に両手を組んで、体を大きくのけぞらせた。もしかして、これは祖母のやる歓迎のポーズなのかもしれない。

立ち上がり、私を促し自分の部屋に行こうとする。

「ちょっと行ってくるわね。孫!」

隣のおじさんに声をかけ、おじいさんと私が会釈をし、歩き出す。

手が冷たい。足の運びが遅く、よろよろしている。寝起きだからだろうか。

いつもと何か、違う。パンっとしていないのだ。

頭を打ったのを聞いた時、母は、そうやって少しずつダメになっていくんだと言った。今年の秋に予定している姉とのニューヨーク旅行の最中に死んじゃったら、申し訳ないけど、帰って来てからお線香あげにいかせてもらう。その言葉が頭をよぎる。

ほんの数メートルの距離を珍しく、私に捕まった。

そうだよなぁ。人はいつかは、いつかは、死んでいくんだもの。

うちのおばあちゃんは死なないって思ってた。

 

 

 

 

 

 

 

取り扱いがめんどくさい

今日の敬老の日、うちの場合、ややこしい。状況は実家と完全分離型二世帯住宅。中扉で繋がった実家には77歳の母と51になる姉が住んでいる。

私がセッティングして母をよべば、喜んでもらえるかといえば、違う。姉が働いているので、夜の時間に間に合わず、抜きにこちらで祝うと、姉も機嫌が悪くなるし、母もかわいそがる。

あなた一人、いい子になってもお姉さんの立場がないでしょう。そんなことやらなくていいわよ、あなたには無理なんだから。

姉に直接、日にちをずらすからといえば、急な誘いや残業が入るから約束できないという。「第一、あの人は母で、我々のおばあちゃんじゃない」。確かに。

そこまでのやりとりがあって、私が一人勝手にあれこれやるのも角が立つ。

何度かそんなことが続いて、私たちからは特に何もしない年が続いた。

「うちなんか、誰も祝ってくれやしないわよ。こんなに近くにいるのにそんなもんよ」

電話で誰に向かってか知らないが、そう言っているのを聞くと不本意というか、悲しいというか、まさにモヤモヤする。やって欲しいの、欲しくないの、どっちなのっ。

今年は。やりたいように、やる。私が、やりたいように、する。

まずは本当のおばあちゃん、敬老の敬老、100歳の祖母のホームに行く。母に、私は行くけど、行きたいなら一緒に行こうと言うと、弟夫婦が来てたら顔を合わせたくないから行かないという。じゃあ、私もよすわというのがこれまでの流れだが、もうそれはしない。今日は、いく。この前転んで後頭部を打ったと聞いたのも気になるから会って様子を自分で確かめたい。

そう、じゃ、私は行ってくるわ。

一人で行っていい子ちゃんになろうが知ったこっちゃない。会いたいから行く。それだけ。他意はないのだ。

 

さて。うちの老人はどうしようか。姉は今日も遅いらしい。息子は七時半頃に帰宅する。私も外出した後、頑張りたくもない。

駅で箱寿司を売っていた。母の好きなバッテラがあった。これにしよ。

母に電話をする。

「バッテラ、食べたい?」

「え?・・・そうね・・食べてもいいわね・・」

「じゃ、買うから。今晩こっちで、食べる?」

「え・・」

敬老の日、買って来たバッテラと孫の笑顔がプレゼント。たまには一人で食べにくれば?」

「え・・・そうね・・まぁ、いいわよ、行っても」

これがうちの敬老の日

スッキリスッキリ。あぁスッキリ。もてなしは息子に託す。