お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

100歳のおばあちゃんと48の私の冒険 2

部屋に入って、椅子を勧めようと、その上にかけてあった自分の寝間着を畳もうとする。

「いいよ、こっちに座るから」

ベッドに腰掛け、二人並んでブドウを食べた。果糖が入れば少し、シャッキリするかと様子を伺うが、どうも、会話のテンポがずっこける。母の近況を言えば、興味を示すかと思い、話してみるが、帰ってくる返事にキレがない。あぁそうなの。そう。それはいいわね。こんなの違う。

私がベッドに寝っ転がると、祖母も体を横にした。

小さく息を刻むように、ハァッハァッとしているので「苦しいの?」ときくと「いやっ苦しくないよ」。

「でもね、もう、何にもできない。何にもできなくなっちゃって、ダメだね。運動してないから」

ここにも運動の時間も歌の時間もある。だが、その時一番張り切っているのが、いちばんの長齢の彼女で、他の人はみんな、車椅子の上で腕だけ動かし、声も小さい。ホームに入る前はゲートボールに俳句に庭の草花にとじっとしていなかった人なだけに、ここの仲間と穏やかな暮らしは物足りないのかもしれない。

「ベランダ、出てみる?」

「ベランダ?」

一瞬、目が大きく開いた。光った。

「いいよ、いいよ。よすよ」

「大丈夫だよ、怒られないよ。私が一緒に歩くから、行こうよ、外」

「そう?じゃぁいくかっ。」

よしっ、乗って来た、それでこそおばあちゃん。

「立てる?捕まって」

普段はそんなこと言わないが、さっきまでのフラフラが頭にあるので手を貸そうとすると

「大丈夫よっ、これくらい、一人で立てるわよっ」

ムッとして手を払って、起き上がり始めた。

よーし。よしっ。そうだ、行こう!