お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

今夜はパーティ

今晩はこれから我が家に母と姉がやってきて、5人揃って息子の誕生祝いをする。

「子供じゃないんだから、もうそういうのいいから」

当の本人はめんどくさがって開催中止を私に求める。

「息子ちゃんの誕生日は私旅行中だから、29日にしてくれる?」

パーティをやるともなんとも言っていないのにそう言い出したのは母である。

 

3人家族と実家とでは体温や価値観が微妙に違う。見たいテレビも興味ある話題も、話すテンポも。一人だとそこに適当に合わせていればいいが、夫と息子が一緒だと母の言う一言にハラハラしたり、それに対する息子のそっけない返事に様子を伺う。

息子の進路に関しては本人が納得いく道を進んでくれればと考えているが、母は、わかりやすい有名な学校や企業の名前を聞きたい。友達は多くなくてはいけないし、若者は常にハツラツとしていないといけない。自分の理解しやすい道を進んでもらいたいのか、やんわりと話しながらそちらへ誘導しようとしてしまう。

昨年のあれはひどかった。

学食が常に混み合っていて席取り合戦をするのが嫌な息子は時間をずらして食べにいくが、そうするとまともな定食は売りれていて、いつもうどんか、そば、コンビニのおにぎりを食べていると言う話になった。

「あら、お友達と一緒に食べないの?それまでどこにいるの?」

「図書室。友達なんかいねえよ。知り合いはいるけど」

「なんで。お友達は大事よ。お昼の時間は学食にいなさい、そうすれば誰かと会ったりするでしょう。そうやってちょこちょこ会話をして仲良くなっていくものなのよ」

「いいんだよ。腹割って話せる奴がいないのに無理して連んでたくないんだよ俺は」

大学生にお友達の作り方をレクチャーするのも如何なものかと思うが、母が言わんとする意味はわかる。

初めっから価値観が合うかどうかなんて考えず誰とでも浅く広く付き合っているうちに深い友情が生まれるってこともある。

凝り固まった自分の殻に閉じこもっているように見えるのだろう。

が、息子の言い分に、私は少しの憧れを持つ。

私自身が誰にでも笑顔で接し、一緒にご飯、一緒にお茶、一緒にお出かけとしてきたが、みんなに影響され自分自身の軸がぶれまくった学生時代だった。

みんながああしてるからこうしておこう。

お母さんがああ言ってるからこうしなくっちゃ。

自分が何が好きで何をしたいかの前に、みんなが、お母さんが。

息子は空気も読むし、私の体調の変化や気持ちの落ち込みにも敏感なくせに、自分の考えはそれに影響されることは一切ない。

どんなに周囲がざわつこうと、流れがあろうと嫌なものは嫌、興味がないものはない。

そしてどこから見つけてくるのか「へえ、そんなのあるの」というものに一人ふらっと出かけていく。

そんな彼がお友達はたくさん作りなさいと言われて「作らなくっちゃ」と焦るはずもない。粘り強い母から何を言われようと「いいんだ」の一点張りで跳ね返す。

「わかった、じゃあ明日から学食でお昼を食べられたらおばあちゃんが一回、千円あげる」

ええーっ!!ちょっと待った!

姉も顔をガバッと上げ私を見る。横で夫は「あ、いいないいな」と羨ましがる。

「俺バイトしてるから金はあるからそんなのいらねえ」

取り合わない様子にホッとして、危うく声をあげそうになるのを押しとどまった。

それが去年の誕生日。二十歳の青年の誕生日の出来事である。

 

「まあさ、こういうのをネタにみんなで集まってワイワイやりましょうってのがホントのところよ」

好物のピザをとるからとご機嫌をとる。

「じゃあ俺に関しては、誕生日祝いは今年で打ち止めってことでな」

しぶしぶ参加を認めたが乗り気でないのが今夜なのである。

ピザにパスタにビールにサラダ。ケーキは姉が買ってくる。

「帰りのバスが渋谷に7時になるんだって。7時半からでいいでしょ」

母は母で旅から自分が家に帰ってくるまで始めるなと意気込んで出て行った。

私は。

じっと。じっとしてよう。息子はもう大丈夫。母と揉めようがなんだろうが、眺めていれば良い。あとはこっちにとばっちりが来たときに動じないよう構えることだ。

なんだって実家との食事にいつもこう、うっすら緊張するんだろう。

 

そしてその側で。

「おはよう。今日でしょ。食事会。楽しみだねぇ」

朝から鼻歌混じりなのが我が夫である。

「できるだけ早く帰りたいけど、どうだろう・・仕事が混んでたら・・できるだけ早く帰りたいけどなぁ・・・」

忙しいビジネスマンを気取るので

「気にするな。待たずに始めてるから」

とバッサリ返すと

「ヒーン、すぐ帰ってくる〜。仲間に入りたいんだも〜ん。楽しみなんだも〜ん」

クネクネ体をよじってそう言った。

この彼の平和な精神がいつも私を支える。