お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

想定外

「さぁて、今日はなにを聞こうかな・・・っと」

玄関でミュージックライブラリーを立ち上げ、嬉しげに夫が言う。

そうとう気にいったらしく「あれ、すごくいいよ」と私に言うが、提案したのは私だ。

結婚を申し込みにきたとき、父に向かって「いい子なんですよ、ホントに」と連発し「知ってます娘ですから」とムスッと返されていた。

若い頃はこのトンチンカンさが理解できず一人泣いたり、腹を立てたりとやったが、なにをやっても相手は変わらないとわかると、こういった習性も笑っちゃうようになるから不思議だ。

「じゃ、いってきますんで」

相変わらず長いコードのイヤホンを耳に突っ込み頬っぺたを光らせ、おじさんの支度が整った。

「頑張ってきます」

「がんばっちょいで」

靴紐を直す背中をポンと叩くと心地よい手応えでフニャッと手が沈む。

ガシッと肩を組むようにハグをすると、今度はムニュッと腹があたった。

引っ込まない。いや、むしろさらに膨らんだ気すらする。この夏相当気をつけたというのに。

なにがいかんかったのだろう。

ひもじいと反動で食べてしまうだろうと、肉も揚げ物も食卓に上げていたのがいけなかったのか。

夕食後、息子が食べていると「僕もアイス」といってきかないのを毎回見逃したあの緩さか。

真夏の暑い日でも鍋にしたというのに。柿ピーも昼間だけにさせたのに。

「ね、昼っていつもなに食べてんの」

「あ、いつもは麺とか定食だよ。あ、でもトンさんにジュースは野菜のうちに入らないって言われたからちゃんと野菜も食べてるよ。昨日もね、天ぷらそばにサラダつけようと思ったらサラダバーが空っぽでさ、でさ、それでもちゃんと・・」

ちゃんと?

「それでもちゃあんと、ミニカレーつけた」

み、み、ミニカレーだとおぉぉぉぉぉ。

「なーんで野菜がカレーになんのっ。」

得意げだった顔がびっくりした表情に変わり

「え、だって、人参とか玉ねぎとか入ってるじゃん、あ、あとキノコとか入ってるのウチの会社の」

・・・その下には白米がこんもりあるじゃないのよっ。ルーだって油脂だってばよっ。そんなんならトマトジュースのほうがまだよかった。

「ひょっとしてそのカレー『ベジタブカレー』って書いてあったの?」

「あ、そうそうそうそうそう。野菜カレー」

だったらいいでしょといわんばかりにまた踏ん反り返る。

「・・・違うんだよ・・・。それは野菜じゃない・・・。野菜と書いてあっても野菜じゃないんだよ」

「うん、そうかなっと、ちょっと思ったけど、ま、いっかって」

確信犯なのか。それとも解滅的に栄養学に疎いのか。

「もういい。早くおいき。」

「いってきます」

確かに餃子が炭水化物だと教えたとき、ここまで細かく説明しなかった。

私の詰めの甘さが、原因であったというのか・・・。