憧れの人
夕方スーパーで幼稚園時代のママ友さんを見かけた。
魚売り場で焼き魚になっている惣菜のコーナーをじっと見ているその後ろ姿を見てすぐにわかった。
おしゃれでお家も素敵で趣味もブリザードフラワーやアロマ。当時は度々ホームパーティーにも呼んでもらい、行く度にそのハイセンスなおもてなしにうっとりしつつ、自分と引き合わせ、がっくりした、正真正銘の素敵なママ。
いつもキラキラ輝くその人に偶然出くわすといつも私は逃げる。
みすぼらしい自分が惨めになるのであちらが気がつかないうちにさっさと店を出るのだ。
彼女の名誉のために言うが、別に私を見下したりしたことは一度もないしそもそもそんなこと思いもしないほど、心の中まで綺麗な人なのだ。
だから、余計に惨めになって、いつもそそくさと見つからないよう、そわそわと大急ぎで買い物をする。
何年かぶりに見かけた彼女はやっぱり素敵だった。
力の抜けた家着のまま出てきましたというような服装なのにそれがおしゃれ。
ゆるい白のシャツにラフなパンツだけだが髪の毛はきちんと整っている。
お化粧も薄く口紅もつけているのかわからない。
綺麗な人はどこまでも綺麗だなぁ・・・。
隠れるのを忘れ思わず見つめてしまう。
あの人も焼き魚のお惣菜、眺めたりするんだ。
たったそれだけのことなのになんだか親しみを感じた。
そうか。あの人だってできてるお惣菜買おうかと思う夕方があるんだ。
冷静に考えれば人間なのだからそうそう毎日ハイスペックな食卓を用意しているはずもないのだが、私の中で偶像化している彼女にはそれはないと思い込んでいたのだ。
なんだあ。ちょっと嬉しい。
と、彼女がふと顔を上げ私に気が付いた。
あ。
ヤバイ、と思う前に思わず手を振った。
ブンブンブンブン。
手を広げ右左に降ってヘラヘラ笑って会釈した。
素敵なその人は、いつもなら「あラァ」と美しく首をかしげるのに一瞬キョトンとしながらつられてブンブン手を振った。
なんダァ。
なんだなんだなんダァ。