禊
いつまでそこにこだわっているんだと言われそうで書くのをやめようと思っていたが自分自身のふんぎりのために書く事にした。
母とのやり取りである。
ああ、また、それね。いつまでもそこから抜け出さない己を晒す恥ずかしさもあるが、書いて昇華したい。おゆるしください。
ちょっといい、午前中やってきた。
「お姉さんね、かわいそうにっていったらなんだけど、やっぱりそうとうがっかりしてるみたいよ。ハワイのことあなたのためにいろいろ調べていたから。」
わかっているよ。もうその話、許してくれと思いつつ突っぱねられない。
「本当にね。申し訳ない」
姉は私が「行こうかな」と言ったときそれはそれは張り切った。その想いを踏みにじったことが今回のキャンセルで一番胸が痛む。
離婚後ずっと独身の姉は私をつれて歩きたがる。
会社の休日に美術館やイベントに誘われるたび、しんどくても喜ばせたくて「行きたい」ふりをして連れて行ってもらうふりを装いついていっていたが、身体を壊してからはやんわりと逃げるようになっていた。
そもそも「つきあってやる」という姿勢が間違いなのだが、当時、自分に意義を見いだせないものだから「私はお姉さんを喜ばせることができる」とそこに存在価値を感じて得意になっていたのだと思う。
家族を喜ばせたいと勝手にあれこれやってた小さな頑張りと嘘に疲れ果て、これからは自分ファーストだわと変更し始めたとき、「以前の妹」の私とずれが生じて彼女を悲しませる。
わたし、これから自由が丘に行くけど・・?と言われればすべてを察して「あ、行こうかな私も」とヒョコヒョコついてきていた妹があるときから「ふーん、いいね、行っておいで」と言うようになったときのあの、何とも言えない姉の顔が忘れられない。寂しそうなつまらなそうな。
ああっっ。
それでもやっとそれを定着させたところでのこのハワイドタキャンは姉に対しての裏切りになってしまった。今回の事でそこが一番辛い。
「昨日、メモがあったから覗いたら向こうで日本語の通じる病院とか、あの人、そこまで調べてあったのよ、本当に楽しみにしていたんだなあって思って」
駄目だった。
声をあげて泣いてしまった。
「えーんえーん」と自分でもびっくりするほど馬鹿らしく間の抜けた鳴き方で拳固で出てくる涙をぬぐう。
「お姉さんには本当に申し訳ないとおもってる」
泣けば泣くほど涙がでてきてしまう。あれ、おかしい、そんな大げさなつもりじゃないんだけどなんでか止まらない。
すると母がそれを見て急にやさしくなる。
「ごめんね、あなたを泣かそうと思っていってる訳じゃないのよ、ただお姉さんが本当にがっかりしているって知っておいてほしいなって思って、ごめんね」
そういわれてしまうと、これまでお腹の中でいちいち教えにくる母にうんざりしていたくせに
「いいの、私が悪いんだから」
と言ってしまう。あ、また小さな嘘・・と思いながら言ってしまう。
けっこう泣いた。
感情が涙になりにくい私にしては珍しくしっかり泣いた。
思いがけず泣いたら気持ちの整理がついた。
あ、もうこれ終わり、そう思えた。
母も私が泣いたら納得できたようだ。
これで、この件はもうおしまい。