お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

だいじょうぶかっていってよ

おとといの晩、ゴルフスクールから「運動になるから神宮から渋谷まで歩いた」夫は10時半過ぎに帰ってきた。夕飯を食べている途中に眠ってしまったので風呂に入らないなら、二階で寝たほうがいいと何度か言うと

「うるさいなぁ、ちょっとまってよ、息があがって今動けないんだから!」

と怒った。

あら、そうなの・・・と大人しく引き下がる妻ではない。

「そんなふうに生活に支障をきたすくらいならゴルフスクールなんかやめてくださいっ」

これまた怒った。

「だって僕個人のことだろ、関係ないだろ」

これがまたいけなかった。カッチンときたので

「わかりました。それじゃ今からもう、あなたの食事もなにもいたしません。どうぞご自由になさってください」

今度は低い声でゆっくり言った。

あ、やばっと思った夫は

「あ、ごめんよー。作ってくださーい。トンさんのご飯、作ってくださーい」

と言いながら眠った。

翌朝、しるもんかとまだ拗ねている私は目が覚めているのに起きない。なんだか頭も痛い。立つとフラフラする。こんななのに無理して台所になんか立たなくたっていい。今日はハンストだ。

「ごはん、今日はご自分でやってください。冷蔵庫に納豆も煮物もお豆腐も卵もいろいろあるから」

「ヒーン。トンさーん」

「頭も痛いの。今日はお休みさせていただきます。」

しばらくウトウトしていると夫が枕元にきた。

「トンさん、準備できたからいってくるね。ちゃんと朝ごはんも食べたから。」

「何食べたの?」

カップラーメン」

え?

「なにそれ」

「え?あれだよ、どん兵衛。まだ納戸にあったから」

それは息子が抽選に応募するためにネットで自腹で箱買いしたもので、本人は一回食べたら「俺、こういうのもういいや」とそのまま置いてあったものだ。息子はそれほど好きではないカップ麺は夫の大好物で、時々「ちょうだい」と言っては「メタボだろ。あれは非常食」とピシャリと断られ続けている。

「なんでそうなるのっ。どうして納豆とか食べないの?」

「だってそれはいつも食べてるから」

もう、子供がお母さんのいない昼ごはんに嬉々としてコンビニで好きなインスタントを買って食べるのと同じじゃないか。奥さんがハンストと頭痛とで起き上がらないのにちっとも応えてない。むしろ、これ幸いとカップ麺。

「どうしてそう、ひとの心がわからないんだよぅ」

「え?あ、ごめん、ごめん〜。ごめんよ〜。あ、時間だから行ってくるね、起きなくていいよ、ここで」

そして今朝。前日よりフラフラ感が増していたが起きた。

シャケ、納豆、トマトアスパラブロッコリ、小松菜と油揚の味噌汁。

恩着せるほどの献立でもない。

お盆に乗せたらもうどうにも立っていられなくて、洗いあがった洗濯物をハンガーにかけたのを束ねて持って、洗面所にいる夫に声をかけず二階にあがった。

寝室のドアを開けるとつけたまま降りたはずのエアコンが切れていた。ほんの数分なのにもう、モワッと暑い。また寝にくるといったのに、アイツめ。

洗濯物を干し、ゴロンとベッドに転がる。

少し冷風が出てきた。

ああ、これがドラマのおしんちゃんだったら、すぐに見つかって「なにやってんだい、川行って水くんどいで!甘ったれるんじゃないよ、頭痛いくらいで!」ってことになるんだろうなぁ。それを思えばありがたい。こうやってズルしたってあの人は怒ったりはしないもんなぁ。

すると足音がしてドアが開いた。どしたの、って言いにきたのかな。

「あ、ご飯食べ終わった。ありがとね。あ、エアコン消しちゃった。ごめんね。うふふふふ」

「むう」

やっぱり上機嫌。

妻がヘソを曲げようがどうしようが上機嫌。

この人やっぱりすごくできた人だ。

そしてさっき電話が鳴った。表示は夫。

「あ。僕ですけど。えーっと、今晩飲み会入っちゃった」

「はいはいはい」

「すみませんね」

「いいけど、私も息子も熱出してるから節度ある時間におかえりくださいね」

「え?息子熱あるの?何度?」

「・・・8度5分。抗生物質もらっていまは7度5分」

「大変じゃん」

「私は8度。飲み合わせがあるから薬は飲んでない」

聞かれてもいないが重要な情報として付け加えた。

「息子心配だな、トンさんよろしくね。じゃ、そういうわけですんで。切るね」

おいっ。8度で息子のオジヤ作って経口補水液買いに行ったりしているこの私へのねぎらいはっ。

どうしてそこで「とんさんは?大丈夫なの?」と言えない。

そしたら

「大丈夫よ。こっちは大丈夫だからね」と言って、本当にそんな元気が湧いてくるのに。

ちぇー。