お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

夜のスイカ

行ってくるね。行ってらっしゃい。

土曜夜10時、そして夫は旅立った。謎の資格試験を受けるため、なぜか奈良へ。

なんでも兵庫にいた時に、来年もここで暮らす前提で申し込んだらしい。彼はこうして2年間、週末は全て趣味の資格取得に励んでいた。しかし、ありがたいことに、2年きっちりで東京に戻してもらえたので、少々予定が狂った。

だったら受けに行かなくてもと思うのだが、せっかく申し込んだからと

深夜バスで関西に向かう。奈良到着は明日の7時。そして9時にテストを受け、そこからまさかの大阪に移動。そしてそこでまた別の試験を受けて、夜、またバスでこちらに戻ってくるという、なんともスタンプラリーのような行程だ。

「日曜、何時に帰ってくるの」

「いや、月曜の朝5時に池尻大橋に着くから、家には5時半頃かな」

池尻大橋はうちから二駅隣。そこから帰ってお風呂に入りご飯を食べて出社するという。なんでそんな無茶苦茶な予定を立てるんだ。一週間の始まりの朝、すでにへろへろじゃないか。

「出してあげるから、帰りのバス払い戻して新幹線にしたら」

「いや、この前ゴルフで使っちゃったから、節約しないと。いいんだ、バスん中で寝られるから」

楽しそうである。

そして、土曜10時、夫は遠足に行く子供のように大きな鞄を背負って出発したのだった。

さてと。

おもむろに冷蔵庫に向かいスイカを取り出す。

ふた切れだけ。残りは明日の朝のお楽しみ。

二つのカットスイカを持って流しの前に立ち、かぶり付く。果肉を噛むと、じゅっと甘い果汁が出てきて、それが痛い喉を優しく撫でる。

たまらん。

ああ、スイカ農家の皆さん、ありがとう。あなたのおかげで私は今、幸せです。

ああ、これを運んでくれたトラックの運転手さん、ありがとう、あなたの流通のおかげで、私のところに届いています。

そういや、スーパーのあの下から二段目の目につきづらいところろに、そっとこのカットスイカを一つだけ置いておいてくれた人、ありがとう。他は全部8分の1カットだったけど、これだけ一つ、4分の1カットをさらに薄くスライスカットしてパックして置いてあった。そう、この一切れの厚さが絶妙。夜食べるのに、厚過ぎもせず、かといって物足りないでもなく。ありがとう、絶妙よ。

 

ガチャ。ただいまあ。忘れ物。

どしたの。思わずスイカをそっと隠す。

「バスに乗る時の座布団、忘れた。お尻が痛くなるから、あれ有ると無いとじゃ大違いなんだよね」

じゃ、今度こそ、行ってきまーす。

行ってらっしゃーい。

 

じゃ、ふた切れ目を。

たまらんのう。