お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

ほろ酔い母の日

母との食事は・・・なぜか疲れた。

が、食事を美味しいと感じ、会話を楽しみ、ワインにちゃんと酔えた。

当たり前のことができるようになってきていることに相槌打ちながら、得意になっていた。

自分で自分に得意になっていた。

父が亡くなってから母の暴言は激しくなった。

そんなことを心の中で思っていたのと気が遠くなる言葉が飛び出してくると、自分の存在がはどうでもいいものに思えた。

母親に否定されるというのは悲しい。

すがったその手を振り払われると、世の中がとても恐ろしいところに見えてしまう。

 

母の相手をするのにワインはいい。

少しぼんやりした頭で向かいに座る彼女が嬉しそうに喋るのを見ていると、この人も傷を抱えていろんなものに怯えてきたんだなぁと、偉そう思えてくるから不思議だ。

夫や姑や世間に怯え、できる限り頑張っているのに足を引っ張る末娘。文句ないでしょと姑に自慢できる長女に比べ、何をやってもへっぽこで体も弱いこの娘。もうっ何なのよっ、何でなのよっ。

受け入れがたかったのだろう。

「こんなつもりで産んだんじゃないのに」

「もっと可愛く産んだつもりなのに」

あれは駄々っ子が無い物ねだりをしていたのだ。

 

おかしなもので私がやっとの思いで母の暴れん坊ぶりを、そうかそうかと受け流せるようになったと同時に、母の方でも末娘のへっぽこぶりに、ついに諦めがついたようだ。

「しょうがないわよ、あなたダメなんだから」

「あなた、人並みにしようなんて無理なんだら」

いつしかダメが承認されている。

 

だからそのままダラダラ何より体を大事にしなさい。

あなたは生きていてくれるだけでいいの。。。

なんて甘い言葉は溢れてこない。

「しっかり頼みますよ。あなたが先に死んだらお姉さん困るんだから」

このスープ美味しいわねぇと言うその口からおんなじトーンでそう言う。

しょうがねえなぁ。しっかり長生きしてやるか。

その晩は最後のシャーベットまで美味しかった。

 

帰りがけ、蝶ネクタイの店長さんが赤いカーネションの飾りのついた袋に入ったマドレーヌをお土産にくれた。