これ誰のだっ
夫が戻ってきてから意外な不都合が生じている。
パンツ問題。
夫のトランクスと息子のトランクスの区別がつかない。赴任が決まった時にゴムの伸びた見窄らしいものしかなかったので、せめてパンツくらいはと新品を買って荷物に入れた。それらが今、息子のものと合流して洗濯物に入る。
乾いたものを寝巻きとセットにして風呂場のカゴに放り込んでいるのだが、どっちがどっちがかわからない。息子のパンツの柄も夫のものも、選んだのは私自身なので、似たようなチェックにしてしまったのがいけなかった。
ま、いいかと、勘で振り分けている。
今朝、息子が階段を駆け上がってきた。
「おい、この歯ブラシ、俺の?父さんの?」
手に二つ、白い歯ブラシを持っている。
荷物の中にあったブラシを何にも考えずに歯ブラシ立てに入れたが、それは息子のとよく似たデザインの白だったようで、息子はそのことに今初めて気がついたようだった。
我が家の歯ブラシ立ては一つに一つ、丸い輪っかのようなものに差し込む。夫のには猫、息子にはmorning!と文字が描かれている。文字とイラストだから間違えようもないだろうとそうしたのだが、息子は前方後方で認識していたようで、自分のは前と思って使っていたがふと見たら、前に猫、後ろにmornig!になっている。すると今、この口に入れたのはお、親父のかぁっ!!・・・となって駆け上がってきたのらしい。
早朝5時の土曜。呑気に寝ていたところを起こされたにも関わらず夫は
「どれ見せて、あーこれ僕の。とうしゃんの」
と貴重な息子との絡みを歓迎する。
「マジかよっ、俺、この数日ずっとこっち使ってた・・どうしよう」
どうしようどうしようと言うその様子にそこまでのことかと思わず
「まあ口でもすすいでおけばいいじゃん」
と口を挟むと
「なんでだよっ母さんも自分が一週間そうだったら嫌だろっ」
ん・・ま、まぁそうかもねぇ。
「じゃあコンビニでマウスウォッシュでも買ってすすいどけば?」
この本人目の前にしたあんまりなやりとりを、夫は嬉しそうに聞いている。ベッドから飛び出し
「とうしゃんの歯ブラシー。とうしゃんの歯ブラシー」
歌い踊る。その気持ち悪さが更に息子の不快感を煽る。
「ウルセェ!キモいんだよっ絶対マウスウォッシュするからなっ。どこの、なんて言うの買えばいいんだっ?」
「そうねぇ。私もよく知らないけど、モンダミンとかいうのとかじゃない?」
「モンダミン〜♪とうしゃんの〜♪歯っブラシ〜モンダミン〜♪」
踊り続ける52歳。
うるせえ!と言いながらも釣られて二つの歯ブラシを握りしめゲタゲタ笑い出す息子。
1時間後、夫婦二人の朝食を用意している側で思い出し笑いをしながら何度もその話をする夫。
「あいつ、真っ青になってたなあ、父さんのことが好きなんだなぁ」
パンツ、歯ブラシ、名前を書いておこうか、それともこのまま二人のこのコミュニケーションを見守ろうか。