ひーん
「帰るの、9時・・いや、10時かな。そんなに遅くならないけど」
ラグビー観戦のあとの飲み会も楽しみに、夫はホッペを光らせ、お弁当とおやつにビールをもって嬉しそうに出かけて行った。
息子と簡単に水炊きの夕食を食べ終わり、それぞれ思い思いに過ごしていると玄関のドアが音をたて、夫が帰って来た。時計をみるとまだ8時である。
「おかえり。早かったね」
「うん、みんなそれぞれあるからね。」
おそらく、観戦中から飲んでいたので、若い頃とは違い、試合の終わった頃にはもう、いいかということになったのだろう。おじさん達は軽く飲んで解散となったらしい。
「楽しかった?」
「うん、ありがとう」
時刻は早いがすっかりいい気分で、もう今にも眠ってしまいそうなのにリモコン片手に立ったまま画面をカチャカチャ取り替える。
「あちこち変えるなっ、見たいのがないならどっかひとつに決めろ」
「ひーん」
たとえ叱られるのでも、息子に構ってもらえるのがうれしくて「あ、なんだよ、言ったな、父さんに向かって」とデレデレと笑う。それがまた息子の勘にさわり
「赤ちゃん言葉みたいな言い方すんなよっ。あっちいけ!もう、帰れ!」
「あー、あー、言ったなぁ、いけないんだぁ」
邪見に扱われれば扱われるほどうれしそうに身をよじる。
夜、ものすごい音量で鼾をたて隣で寝ていた夫が、ブッと大きなおならをした。
寝ているくせにおならをしたあと、「あー・・・」と感嘆に似たような声をだすのが腹立たしい。まあ、たくさん飲んだから鼾もおならもしょうがないか。
そう思いまた目を閉じると今度は、ぶ、ぶ、ぶ、ぶ、ぶーっ!・・・あぁ・・ときた。見るとよほど楽しかったのか幸せそうに笑っている。
そこにまた、ぶー!
すかさず
「なんだこりゃ!」
と言ってみた。
「ひーん」
思わぬ反応がもどってきた。おもしろい。寝言に話しかけちゃいけないとよく言うが、おならもいけないのだろうか。
でも、おもしろい。もう一回、しないだろうか。
しかしガスは出しきったのか、待てど暮らせどもう鳴らない。
あとはもう満面の笑みで、酒の匂いのまじった寝息を規則正しく繰り返し夢の中なのだった。
う、うらやましい奴め・・・。