お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

被害者一名

新年早々の朝から、三合分のご飯でチャーハンを作る。それに続き、更に三合分のご飯でおにぎりを8つ、握った。

昨夜、ワインで酔っぱらった状態で、米を研ぎタイマーをセットした。どうもそのとき水加減をまちがえたようで、今朝「さあ、おにぎり」と炊飯器の蓋をあけると、炊きあがっていたご飯の表面がなんとなく、尖っている。

気のせいかと、食べてみると、飲み込めないほどではない。

家族だけの朝ご飯用なら、すらっとぼけて出しても、いけるような気もするが、ボソボソとした口当たりは、やっぱりおいしくない。

夫は結婚する前から、毎年新年二日には、秩父宮ラグビー観戦にいく。大学時代のラグビー部仲間と試合観戦をし、そのあと、居酒屋に流れて飲み会というのが恒例のお楽しみなのだが、その際、スタンドで食べるものを人数分作るのが私の役目である。

当初は14、5人分だったのが、次第に結婚したり、転勤したりとそれぞれ参加できない事情ができ、この数年は夫を含め4人だ。

「みんながおにぎり弁当がいいって言うんだけど」

少人数に落ち着いた頃から二日の日はおにぎりとなっている。

そのためのご飯が。かっちかちである。

あまりのことにクラクラする。しかし、時間が迫っている。呆然と立ち尽くしている暇はない。

ごま油、塩、鶏ガラの顆粒、ネギ、卵で三回にわけてフライパンでチャーハンを作りに取り掛かる。大好物の納豆と味噌汁のはずだったの夫の朝食は強引にチャーハンへと変更された。

醤油味と塩味の二種類こしらえ、夫の分を皿に取り分けた残りをタッパーに一食分づつ入れ、冷凍することにした。

息子がバイトに行く朝、チンして勝手に食べていくのにちょうどいい。転んでもただ起きるものか。

そこに新たにしかけた三合の米が炊きあがった。

タラコと梅で8つ。握っているところに夫が起きてきた。

「おはよぅ。あ、ありがとぉ〜」

「それ、朝ご飯」

黙々と作業をする私にはもはや笑顔を作る余裕もない。

できたものを、クッキングシートでくるむ。ホイルだと開けたときに海苔がくっついてしまう。通気性のいいクッキングシートで包んでから容器におかずと一緒にいれればいいのではないかと、今年から試みるつもりで用意していたのだが、思いのほか、うまく包めない。あんまり紙の上から強く力を入れるとご飯粒が固くなってしまう。不器用な手先が呪わしい。

「ありがとねぇ。みんな喜ぶよ」

呑気にチャーハンを食べる夫の声も遠くに聞こえる。

なんとか作り終え、ちょっとのおかずと容器におさまった。ついでに蜜柑を四つ、紙袋に入れる。

で、できた・・・。間に合った・・・。

チャーハンから始まって、手際と要領の悪さからなんだかんだ二時間半、台所で格闘した。

そこにイソイソと夫がやってきて、冷蔵庫から昨夜から冷やしていたビールを取り出す。

500mlの缶ビール6本。試合を見ながら飲むために持っていくのだ。

「・・・おせんべいも持ってくの?」

「うん。柿ビー。あと・・・ポテチ。ポテチはひとつだけだよ」

「・・・柿ピーは?」

「・・・・・・9個入り」

「四つだけとって後は置いてけ」

「そだね。これ、あっちに持って帰る」

「ちがう。それ、わたしの。私がもらう」

「え〜っ。持って帰る。僕の」

「・・・ただ働きかよ・・・」

ぐいっと紙袋を差し出した。毎年別になにも要求しないし、柿ピーが好きなわけでもないが、今朝は消耗が激しいのだ。

浮き浮きビールにおやつを鞄に詰め込むのをみているうちに、絡んでやりたくなってきた。

「え・・。柿ピー。僕のだもん」

「わかった。明日、お義父様に言いつけてやる。おにぎり握って、あまった柿ピーすら、くれないんです」

「わかったわかったわかった。トンさん食べなさい、置いてくから」

勝手に酔っぱらって水加減をまちがえ、勝手にチャーハンなんかを作ったくせに。

気の毒な話だ。