お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

ベッド壊れた

昨日、あてどなく散歩し、ぐだぐだ帰ってきた夕暮れから、一気に事件性のある一日になった。だった。ドトールで広げた本に思わず集中してしまい、気がつくと外は真っ暗。

家に着くと、ちょうど、門を出てきた息子が床屋にいくところに遭遇した。ハイタッチをして「こうたーい」と送り出す。

二階に上がり、洗濯物をとりこむ。ベッドの上に乾いた服をぱさりと放り、そこに寝転んだ。日の当たった布のにおい。目を閉じる。

どかっつ。

身体が急に傾いた。なに?なにがおきた?

立ち上がりよくみると、フレームの一部がはずれ、床に落ちている。ねじと金具をひっかけるような形でとめてある、その金具の方がぐにゃりと歪んでいる。

しばし、呆然とはこのことか。本当にしばらく、固まった。

とにかく直さないと。しかし、マットレスと布団がのっかっているので重くて持ち上がらない。そして落ちたはずみで床に引いていたラグを噛んでしまって、斜めにゆがんだベッドはびくともしない。

こうなると夕飯のことなど、もう二の次だ。

現状回復しようと、あの手この手で挑戦するがフレームの木枠をつなげている金具自体が歪んでいるため、手の施しようがない。

そもそも、このフレームは私が高校のときに姉とそろいで買ったものである。それを夫と私でこれまで使い続けてきた。今度の3月で50になるから、かれこれ32年も使ってきたのだ。これまでよく壊れなかったものだ。

新しいのを買うしかない。

無惨なベッドを置き去りに、今度はパソコンを立ち上げる。

ベッドフレーム、即日。と検索すると出てきた。が、どれもパイプだったり、やたらカントリー調だったり、若い女の子のかわいらしい部屋に似合うようなものばかりだ。ええい、やむを得ん、と、思ったがやはり、ゆくゆく後悔するような買い物はしたくない。

また、パソコンを閉じ、ベッドに立ち向かう。

そこに息子が帰ってきた。

「ただいま。どした?なにやってんの?」

「壊れた・・ベッド・・直らない・・・金具が・・・もうやだ・・」

「なに?いま?買ったら?新しいの」

「納得いくようなのは12月下旬にならないと届かない、即日はかわいい女の子向けのしかない」

「親父のベッドで寝ればいいじゃん」

「やだ〜!!」

もう、疲れ果てて訳がわからなくなっている。とにかく息子をつかまえ、二人掛かりでなんとかフレームを持ち上げ、床と壊れた箇所の間に、MacBook Airが入っていた白い箱を差し込んだ。箱の高さがうまいことあって、一見、ベッドは床面との平行さを持ち直した。

「ちょっと寝てみて」

息子を横にさせてみる。

「どう?」

「まぁ・・・微妙〜に、斜め」

しかたない、それでも今夜はこれで寝るか。

「親父のが開いてるんだからそっちで寝ればいいじゃない」

「やーだー。おっさんの匂いがする」

「傾斜と親父のベッドとどっちを選ぶんだよ」

「傾斜」

そのまま一階に下り、速攻鍋を作って夕飯にした。

それでもMacのあの白い箱の威力はすごい。結局つぶれることなく、朝まで私を支えてくれた。

早朝、ベッドの脇に立って誰かがこっちを覗き込んでいる。

夫だった。そうだ。今日、日帰りで帰ってくるって言ってたっけ。

「ただいま。結婚記念日帰れなかったから帰ってきちゃった」

「ベッド壊れた」

仕事をやりくりして夜行バスに揺られ兵庫から辿り着いたばかりの夫に寝起き一番に出た言葉が「ベッド壊れた」。

どこ?という夫に、ベッド下のMacBook Airの箱を指差す。

「お・・・これは・・・買いなさい、新しいの」

もう、昨日がどんなに大変だったか、どれだけ疲れ果てたか、どんなに途方に暮れたか一気に話したいのをぐっとこらえ

「おかえり。おなか空いてる?シャケと納豆でいい?」

のそのそむっくり起き上がる。