お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

豆台風一過

たぶんこれは愚痴だ。いや、被害届としておこう。

昨夜、息子の20の誕生日祝いは予定通り決行された。

午前中、母が飛び込んできた。

「今日、孫ちゃんのお祝いするって言ってたけど・・・」

ブラックな私が、お、なんだなんだ、誰か予定が入ったか、中止か?良いぞ良いぞ、2人でしんみりケーキ食べるから構わんぞと、心の中で鐘を鳴らす。

「お姉さんがね、今日残業入れちゃって早く帰れないんだって」

中止決定!キンコンカンコンキンコンカンコン🎶

「だから、3人でお寿司食べましょう、もう、お姉さんにあれほど早く帰るようん言ってたのに、ごめんねぇ」

あ・・・。やるんすか。やるんすね。

予定通り、6時半になったらいらっしゃい。というのでどうせ3人なら、お母さんがこっちに来ればというと、あら、そうねということになった。

時間ぴったりに食卓につく。最初の会話は、成人になるので国民年金加入の知らせが来たが、月1万6千円は学生には痛いという話題であった。両親が払ってやっても良いらしいが、私の一存で決めることではない。夫が帰ってくるまで保留になっているというというようなことから始まった。

乾杯をお酒で祝ってもいいのだが、それは夫が帰ってきたときにとっておこうと息子と決めたのでお茶を置く。

「あら、お酒、ないの?」

「最初は親父と飲む」

「もう、だらしないわね。いつまでもお父さんお父さんって。そんなんだからいつまでたっても友達ができないのよ。」

うわぁ。それ、ここで言う?

息子はいまだに学食で食べるのを避け、1人コンビニで買ったおにぎりをベンチで食べ、空き時間は図書室で過ごしている。本人も気の合う友人がいないのを気にしてはいるが、なぜかそれを家族みんなに話す。それを聞いた母は、なんとかして友達の輪に入れと息子に指示をし続けているのだが、本人は頑なに「友達になりたいと思う奴はいない」と突っぱねる。

私と顔を合わせるたびに、孫ちゃんは友達できたのと聞くので、

「まあまぁやってるみたいよ。大学は顔見知り程度はいるらしいし。バイトの仲間の方が楽しいんだって」

と当たり障りなく交わしていた。当然、先日の後輩に馬鹿にされて深く傷ついた一件などは、話していない。

相変わらず、相手の気持ちよりも、自分の理想論をぐいぐい押し付ける。始末に悪いのは、正解は自分の説のみであり「良かれと思って」の確信犯であるというところだ。

「どうなのよ。まだ1人で食べてるの?」

「そうだよ。コンビニで買ってベンチで食ってる」

「なんで学食行かないのよ。」

「汚いし、うるさいし、一緒に居たくないんだ」

「そんなことない、隅っこの片隅でいいから、そっとそこに居てごらん、誰かが声をかけてくるかもしれないでしょ。お友達ってそうやって作るものなのよ」

「やだよっ。俺がやなの」

2人のやり取りを私は関心がないふりをして、テレビ画面に集中する。そこでは博多華丸・大吉さんが平和そうに軽井沢の街を散策している。大吉さん、助けてくれぇ。

「意気地なしねぇ!そんなんでじゃ社会に出てもやっていけないわよ、ちょっと我慢して居てみたら良いじゃないの」

「食ってみたことあるよ、時々は行ってるよ、でもやっぱりやなの」

お母様、うちの息子は言えばいうほど意固地になる奴なんです。適当に「あ、そうなんだ」くらいにしといてもらえませんかねぇ。と、腹から胸にかけて溜まっているが、このお母様こそ、言えばいうほど意固地になる最強の女なのだ。

我、関せずぅ・・・。大吉さーん。

すると、私の耳に恐ろしいフレーズが飛び込んできた。

「そうだ、じゃぁ、一ヶ月毎日学食で食べることができたら・・・」

ぎょえぇっ。や、やめてっ。今度は何で釣る気だ。

母はこれまで、何度やめてくれと懇願しても、「・・・できらたらご褒美に・・」小遣いやゲーム、パソコンなど、高額商品を景品としてぶら下げてきた。子供はそれ欲しさに頑張るが、そうやって手に入れたものはあまり大事にしないし、所詮、もの欲しさが動機なので、モチベーションも長くは続かない。側から見ていても、いいように操られているようで気分が良くなかった。

今度は何をぶら下げるつもりなんだぁ!

「そうねぇ。それができたら・・・おばあちゃんが、大学卒業までの年金、全部払ってあげる」

はぁぁ?

ありがたい申し出と割り切れば40万ほど、浮いて助かるのだが、それより先にものすごい嫌悪感が走った。

学食で食べさせることがそんなに重要なことなのか。

そんな力技使って、修行させてどうするよ。

正解はそれ一つかよ。

固まったままでいないと、言葉がこぼれ落ちそうだ。ぱっと見には、私はずっとテレビを眺めてじっとしているが、その中では感情が乱れ狂っている。

「いらねぇよ、そんなもん、自分で払うし」

おお・・・。ぴしゃりと返した息子の言葉に力んだ体が緩む。

「違う、そういうもんじゃないの、いいから学食でちゃんと食べなさい、大事なことよ」

席を立ち、コーヒーを入れて、冷凍庫からアイスクリームを持ってきた。

「ま、ま。デザートでも食べましょ」

そのあと強引に話をテレビに持っていき、その流れのままお開きにした。

「わかった?月曜からは学食で頑張りなさい」

帰り際にもう一つ余計な一言を残して、77歳は自分の家に戻った。

 

なんか。

疲れた。

そして、やっぱりダメージを負った気がする。

「それで良いんだよ」と太鼓判を押し、本人も「そうかな、そうだよな」と結論づけたことを、「あんたたち、大間違いだ、そんなんで良いわけないだろう」とハンマーでガンッとやられたような痛みが残った。

息子はどうなんだろう。

慰めるようなことでもないし、いうべきことはもう伝えてある。

この揺さぶりを、良い方向のアクションにつなげていくだろうか。

意固地になるのだろうか。

まあ。二十歳だしね。ここからは。自由にやれ。

あたしゃ、それを全面的に支持するよ。