お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

買い物しようと街まで出かけたら

久し振りに運動しようと歩いたのがいけなかった。隣町の無印良品まで息子のジーパンを買いにでた。

大学生になってまで親がついていくのも、なんだかなぁと思い、本人に買いに行けといっても、めんどくさがっていかない。

二本しかないのを代わり番こに一日置きに履くものだから、ついに穴があいてしまった。デニムの穴くらい、箔がつくというようなものと言いたいが、穴はちょうど、前ファスナーの真下。もうひとつのほうも、後ろポケットのすぐ下。どちらも具合が悪い。

この二本が全滅になっても、買いに行かず、今度はチノパンと七分丈のカーゴパンツを1日交代で履いて出かけていく。

冬に向けて七分丈はいずれ脱落するだろう。そうすると残りのチノパンしかなくなる。見てるこっちが落ち着かない。しょうがない、とりあえずつなぎの一本、買っとくか。

大学に入るときに買った無印デニムの商品タグと切り取った裾生地をとっておいた。それを持って行き、全く同じものを買えばいい。丈は背の伸びた分、1センチ長めにしよう。

と、思って出たのだ。そうだそうだ。運動不足だから一駅分歩こうと。バスか電車に乗っていたらありえない悲劇だった。

店内で同じ商品をみつけ、レジに持っていく。

「丈詰めをお願いするとどれくらいで出来上がりますか?」

「5日、みていただいております」

若い、線の細い、誠実そうな青年が答えてくれた。

「え・・」

一時間程待っていればできると思い込んでいた。その間に買い物でもすませて戻ってくるつもりだったのでつい、レジで一瞬、黙る。お兄さんは申し訳ありませんと私の顔を伺う。

「・・・わかりました。これ、前回の切り落としの生地なんですけど、これより出来上がり、1センチ長くしてください」

「かしこまりました。えっとこちらは、当店でお買い上げになったものでしょうか」

「ごめんなさい、自由が丘店で買いました。大丈夫かな」

「えっと・・・・・・はい、大丈夫です、じゃ、まず、お支払いの方から」

「はい」

・・・ここ。ここで、気がついた。正確にいうと、このシュッとした人の良さそうなお兄さんの前で大きな鞄をガサガサ引っ掻き回して、やっとそこで、どうやら忘れたようだと認識したのだった。

「ごめんなさいっ、あの、すみません、お財布忘れたみたいで、すみません、出直してきます」

お兄さんはムッともニコッともしないで「では、こちら、お預かりしておきますね」と私を見送った。

財布がないから一駅分歩かないと帰れない。今来た下り坂を今度はトボトボ上がって帰り、また、引き返す。あんまり足がジンジンするのと急ぎたいのとでタクシーで店に戻ろうかと思っていたが、いざとなると、やはりもったいなくて、バスを待った。

「どうも失礼しました」

レジ脇でなにやら事務仕事をしていたさっきのお兄さんに声をかけた。私をみると、今度はパッと笑顔になり

「大変お待たせして・・あ、すみません、お待ちしておりました」

レジの後ろからさっきのデニムを出してきて会計とお直しの手続きをしてくれた。

「こちら、5日いただきまして、28日日曜の18時以降のお渡しとなります」

「あの、これは、月曜に取りにきてもいいですか?」

「え?あ・・。はい、こちら、もうお支払いもお済みですので、ご心配なさらず、ご都合のいいときにゆっくりいらしてくださって大丈夫ですから」

お兄さんは痛々しい人を労るようにゆっくり丁寧に説明してくれた。