やだわぁ。
二階に行こうとする息子にシャッターを下ろしてと頼むと、また風呂に入りに降りてくるからそのときやるよと、めんどくさそうに言う。
「やだ、そう言っていつもそのまま寝ちゃうじゃない」
「寝ないよ、まだ9時前じゃないか」
信用ならないが、今日は違うかもしれない。
「わたし、このまま寝るからね、たのんだよ」
へーいと、自分の部屋へと上がっていった。
9時前だというのにもう眠い。
なんとなく口寂しくて、ポン菓子をぽりぽり食べ、ミカンを食べる。ミカンの酸っぱい香りと、まだ甘くない果汁に、子供の頃の遠足や秋の大運動を思い出す。
寝よ。
このまま台所にいると、ついつい色々食べてしまいそうだ。歯を磨き私も階段を昇っていった。
ベッドに寝転び、YouTubeを観たりしているうちに眠くなり目を閉じた。
目が覚める。
11時。隣の部屋は馬鹿に静かだ。ほおら、やっぱり。あのまま寝たんだ。
やれやれ。
「ほれ。11時だよ、シャッター閉めてきてよ、お風呂もまだでしょ」
わかったわかったと繰り返して寝続ける。
知らんぞわたしゃ。ベッドに戻り布団を被った。
ま、大丈夫だよね。窓は閉まって鍵もかかってるし。門の方も閉めてあるし。
……。
この僅かな手間を惜しんで、後から激しく後悔するかもしれない。
…………。
あぁっもうっ!
かばっと起き上がりズトズト階段をおりてゆく。
ちぇっ。結局こうなるんじゃねぇかよ。
心でつぶやきながらシャッターに手をかけた。
そこに仕事帰りの姉が庭を歩いてくるのが見えた。
「こんばんわぁ」
「どしたの?」
「息子に頼んで寝たらアイツも寝やがった」
「おやおや、それは。」
おやすみーと言って音をさせないよう、ガラガラガラっと降ろした。
喉が渇いて水を汲む。
ったくよぉ…。
あ。
はたと気づく。
さっきから心の声がずいぶんとガラが悪い。
やだわぁ。いつから私、こんなんなったのかしら。
慌てて女らしく心で呟くがしっくりこない。
知るかそんなもん、寝よ寝よ寝よ。