気を散らさないっ!
アマゾンで買いたい本が見つかって、ポチッとしてもよかったのだが、なんとなくそれは最終手段にしたいと思った。
できるだけアナログで暮らしたい。
偉そうなことを言って、じゃんじゃん電子レンジもメールもラインもネットショッピングもしている。けれどなぜか、本だけは、本屋をうろつき、パラパラとめくって、買おうか買うまいかもう一度迷って、ついでに隣に並んでいる気になる本も立ち読みして、ぐるっと店内を一周して、さぁ、とレジに持って行きたいのだ。
雨が止んだその隙間を縫って、散歩がてら本屋に行った。
目的の本はなく、やっぱりネットで買おうと納得がいった。しかしそれで、立ち去れない。曽野綾子が女だって好きなことして生きていけばいいと、言っている。茂木健一郎が、雑談の上手な人は相手を喜ばそうと話している。嘘だっていいんです、ユーモアに繋がれば。その場を和ませるのが雑談の目的です。と語っている。斎藤茂太先生は笑顔のいい人がいい。それには一日一日の積み重ねです。いい笑顔の顔は積み重ねて出来上がるのです。とおっしゃっている。
ふうん。と感心するたびに、いちいち、買って帰ろうかしらと裏表紙を見る。千いくらと書かれた値段を見ては棚に戻す。
すると、懐かしく、珍しい名前に目が止まった。
木皿泉。好きな脚本家であり、作家であり、このひとの書くエッセイも好き。本業は脚本家なので小説はそうそう並ばない。
おぉ。やっぱり本屋に出向いてよかった。
これは、立ち読みするのももったいなく、すぐ、レジに持って行った。
帰って、パンをかじりながら、いそいそと本をめくる。
そうそう。この文体。この人物像が動き出しそうな情景描写。これこれ。
と、読み進めると、文中に「富士ファミリー」というコンビニとも言えないマーケットストアという表現を発見した。富士ファミリー・・どっかで聞いたような、確か・・すぐその場でネットで検索。アナログがいいわぁも、どこ吹く風である。
やっぱり。「富士ファミリー」とは、かつて2016年、NHK、正月のスペシャルドラマで木皿泉さん脚本で放映された作品のタイトルだ。その怪しいマーケットを舞台に繰り広げられる家族の話だった。三姉妹という設定も、そのままだ。この本はその続きか、それ以前かの話なんだ。
1人、興奮する。そうとわかると、本を読んでいても、主人公は小泉今日子、長女は薬師丸ひろ子となって頭に入ってきてしまう。
2人とも嫌いじゃないが、どうも、自分で想像しながら読む余地が減ってしまった。チラチラ浮かんでは邪魔をする。
このドラマは見逃したドラマだった。予告で楽しみにしていたが、当日は家族に録画もライブ放送も権利を取られ、諦めた。知らなかったが、好評で2017年も続編を放送している。
本を読む前にこっちを観てからの方が楽しめるか。観るとなると17年まで一気に観るか。
しかし、ドラマを見終わった時に、はたしてこの「読みたいっ」というワクワクさの鮮度がそのまま保たれているだろうか。
富士ファミリー、しばらくいいや・・。などということも、私なら十分ありえる。
アマゾンでもともと買おうと思っていた本など、もう頭にない。
富士問題でいっぱいである。
一歩、本屋に行ったがために、私の興味はあっちに散り、こっちに散る。
今はNHKオンデマンドで昔のドラマを検索したついでに、あら、こんな番組もあったわねぇ、懐かしいわぁ・・・と更にフラフラしはじめ、いかんいかんと、また本を広げている。