ただいまの電話
昨日、夕涼みと散歩を兼ねて夕方スーパーに行った。
店内であれこれ見ていると携帯が鳴る。息子がハラヘッタと言ってきたのかと、慌てる。
見ると、夫だった。何事だろう。
「もしもし」
店内のざわざわした音が聞こえたのか「今どこ」と聞かれたので、スーパーにいると答えると
「あ、じゃ、いいや、たいした用はないから」
と言って切ろうとする。
「今日、どうしてたの」
「会社。今、帰ってきたとこ、これからご飯」
あ、ただいまって誰かに言いたかったのか。
「ご飯、これから何食べるの」
「今日は久しぶりにご飯炊いたから、うち飯。」
「偉いじゃん。で、何食べるの」
「ご飯と味噌汁と・・・あと・・納豆・・?」
「それだけ?」
「あ、昨日、牛丼に卵つけてちゃんとタンパク質とったから」
胸がざわざわする。自分が一人飯の時に、ご飯に朝の残りとか食べるのはいいが、なぜか夫がそんな夕飯を食べていると不安になる。
「なんでよ。ちゃんと送ったでしょ。お魚とか、いろいろ。もうなくなっちゃったの?」
語気荒くなった妻の声に、慌てて「いや、まだあったかな・・あ、秋刀魚の蒲焼とかあったかな」と早口で言うが、今から冷凍庫から出して温め直すのが面倒なようで「大丈夫大丈夫、昨日ちゃんと食べたから」を繰り返す。
「ちゃんと食べないとダメだよ。もう、オヤジなんだから」
「わかったわかった、そうする」
長年付き合ってきて最近、やっとわかった。夫はとりあえず逆らわず流すが、言うことは聞くつもりはハナからないのだ。
「あ、そう。わかった。そうやって聞き流すんだな。わかった。そんなら私もこれから、毎日おかゆしか食べないから」
「いや、それは、トンさんはしっかりちゃんと食べなさい」
「わかったわかった、そうする」
「・・・わかった。ちゃんと魚かなんか足す、ちゃんと食べます」
「それじゃ、今日の夕飯、ラインで写メして送るように」
わかったわかったと苦笑いしながら電話は切れた。
スーパーを出て家に向かう帰り道、ラインが入る。
お盆に乗った夫の夕飯の写真が届いた。
「ジャーン、鯖の味噌煮定食」
レトルトのワカメの味噌汁、白いご飯、解凍した鯖の味噌煮だけの乗ったお盆に箸が一膳添えられている。
寂しい。こんな食事を一人で土曜の夜に。なんというか・・。
「よし。よかろう。そこに納豆も追加するように。あと、明日トマトとキウイ、買って、毎日食べなさいよ。あと、青汁も。お疲れ様でした。」
「うん。トンさん、ありがとう。」
ありがとうとか言うなよ。なんか、切ないじゃないか。