とらや〜っ。
「トンさん・・・言いにくいんだけど。言わないといけないことがある」
きたっ。夫のこれ。今度はなんだ。お金か。何か付き合いで買ったのか。それともなんだ。
「聞きたくない」
「いや、聞いてくれ。秘密は持ちたくない。」
「いいよ。その秘密、一人で抱えておいてくれ」
「いや、聞いて!聞いてくれ」
やだなぁ。なんだよ。
実は。この間買ってもらった会社の上司へのお土産、まだ机の下にあるんだよね。
・・・。だから聞いたじゃないか。部署のみんなに配る以外にもいるのかと。上司にも用意してくれと言ったのは、キミだろう。3000円と5000円の商品で迷って、後から気になるくらいならと、餃子を買うのを諦めて、奮発したのだった。
あぁ。虎屋の羊羹。
そうだ。確かあの日は、旅行明けで、みんなぐったりしていたので、夫の体を休ませたいと、私一人で行ったのだ。そう。あの日も、猛暑だったなぁ。
ぐわっといろんなことが頭に押し寄せる。
とほほ・・・とは、こういう時のための言葉だろう。
「ごめんな。こっち今バタバタしててさ。なんとなくそれどころじゃなくて。初日のタイミング逃したらさ。もう、今回は無しでいくわ。」
羊羹だから賞味期限は年内11月まで大丈夫だが、確かに今頃になって、のこのこと渡しにいくのもおかしい。
まぁ。サラリーマンにはサラリーマンの、夫には夫なりの、現場での状況や流れでの判断のことだからなぁ。
ことだからなぁ。。。。とほほ。
「無駄にすると悪いから、これ、ちゃんと責任持って・・・」
どうするつもりだ。大家さんにでも持っていくのかと思って聞いていると
「責任持って、毎日食べるから」
ちょっちょっちょっちょっと待てい。
「いいよいいよ。今度の土曜に帰ってくるとき、そのまま持ってきて。みんなで食べてもいいし。」
「あ、そう?じゃ、持って帰るわ」
秘め事を打ち明けた夫は晴れやかな声で答えた。
・・・3000円にしとけばよかった・・・。