お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

人生の達人

久しぶりにスーパーに行った。午前11時の店内は、結構混んでいた。やはり、みんな暑かろうとなんだろうと、生活をこなしているのだ。

若いママたちは少なかった。大御所と私が内心読んでいる、いわば、主婦のプロたちが、わっさわっさと品物をつかんでは買い物かごに入れていく。

その手は迷うことをしない。ブロッコリー、レタス、ナス、特売の鮭、豚肉の徳用パック、卵、小分けされたお煎餅、直感で次々に入れていく。魚は店員を呼び止め、内臓をとって三枚におろすよう指示を出し、できたら声かけてねと、次へ進む。

きっとこうやってしばらくの食材を買い込んで、あとは数日、それを回していくのだろう。献立はきっと、その日その日の流れと家族や自分の体調で決めていくのだ。熟練者だからこそできる技だ。

私と同世代と思われる女性はスマホ片手にそれを見ながら商品を選んでいる。

メモを見ているのかレシピか、いずれにせよ大まかに「これを買うべし」「今夜はこれにすべし」と決まっているようだ。

私も同じ。メモに書いてある鶏胸肉、パン粉、ごま油などをえーっと・・・といちいち探しに行っては入れる。その途中に【本日限り!】などと赤い文字が踊っていると、つい、立ち止まるから、なかなか進まない。

何事にもプロフェッショナルはいるもんだなぁ。

レジのところでシステムダウンのため、今日はカードが使えないとアナウンスが流れていた。

「私はカードで買うつもりでお金、持ってきてないのよ。どうすればいいのよ」

プロ主婦の一人がレジの女の子に抗議していた。

そんな、怒ったって、機械が故障してるんじゃしょうがないじゃないか。

どうするの、どうやって買えばいいのよと、いつまでも絡んでいるのを見て、熟練者にも短所見つけたりと、心の中でつぶやく。

すると店長がすっ飛んできた。

「うちだけじゃないようで、この辺一体、みんなダウンしてるようなんですよ」

店長も店の責任ではないということを、しっかりとアピールしたい。

「そんなの、どうでもいいわよ、どうすんの、お金足りないわよ」

「5千・・・です」

そこにレジの子の声が挟まった。

それにつられて財布を覗き込み、中を確かめながらプロは仰った。

「あら、足りた。あったわ。ギリギリ。よかったよかった。あなた、よかったわねぇ。」

うふふふふふと、ころっと無邪気に笑う。このこだわりのない笑顔。何かを突き抜けたところにいる、達人のように見えた。

無敵。