落ち着くところ
ずっと前から、今日公開の映画を観に行くつもりでいたが、あらすじをよく調べると、社会派で結構、考えさせられるものだとわかった。
「やめるわぁ」
声に出して息子に言うことで中止と決めた。
今は、綺麗なもの、楽しいもの、ワクワクするものに囲まれていたい。
現実から目を背けるつもりではないけれど、まだまだ社会に切り込んでいくほどのエネルギーはないのだと、気づく。
銀座に友人とのおしゃべりに出かけて行ってから、それまで閉じていたところに一気に外の世界の刺激が入ってきた。
最先端。そんな印象。
丸の内や日本橋で働く人々、銀座のデパート、本屋、ランチや映画を楽しむ主婦、老舗のパン屋に和菓子屋に。
そこは私が会社勤めをしていた時、いつもウロウロしていたところ。
なのに今の私には眩しすぎる。長くはいられない。
慌てて家に帰ろうとする自分と、そんな自分をちょっと悲しく思う自分。
扉を開いたら、強烈な外の光が入ってきて慌てて閉める。
今はそのときじゃない。
やっと、前向きな発想や、アイディアが浮かんだり、あれもやりたい、ここも行ってみたい、あのドラマを見たい、あの映画も見たいと気持ちも外に向いてきたが、なんせ、閉じこもっていた時期が長いのと、何より、私の身体は、随分変わってしまった。
その変わった自分をちゃんと受け入れきっていない頭は、あれこれと思いつくから、心乱れるのだった。
今はそのときじゃない。
まだ、そのときじゃない。
そしていつか、そのときは、必ず、くる気がする。5年先か、10年先か。
わからないけど、漠然とそんな気がするのだ。
午前中、台所で古くなったレンコンをすりおろし、冷凍庫にあった鶏ひき肉と卵とちょっとの牛乳、パン粉と混ぜ合わせ、フライパンで焼いた。
甘辛ダレを絡めて小さなつくねハンバーグのようなものが出来上がった。
それを作りながら、思ったのだった。
今はまだ、家の中ときだ、私は。
結局、家の中にいて、好きなことをしながら合間合間に掃除をしたりアイロンをかけたり、特別でもないことをして過ごす日々が落ち着くのだ。
気持ちは時々、遠く旅に出ることもあるが、やっぱり家が好きだ。
まだ今はこの台所や二階の机の前にいたい。