ババ乙女出発
早朝、6時50分。ババ乙女、出発。
今日から従姉妹とその友人達と、米子に二泊三日の遠足なのである。
背中にリュックを背負い、ピンクのチェックシャツ、ジーパンを足元で折り曲げ、小さな背丈で踏ん反り返って歩く姿は、小学生のようだ。
昨夜、
「明日7時に駅だから50分には家を出るけど、起きてこなくていいからね。もう、勝手にささっと行くからお構いなく、見送りなんていいからね」
と言いにきた。これは、見送れ、ということなのだ。
「ほんと、お姉さんもいないし、私一人っきりだから、わざわざ起きてこなくていいから」
息子は3限からなので、毎週火曜は朝寝坊するところだが、自然と6時半に目が覚めた。シャッターを開け、洗濯機の電源を入れていると、隣の玄関がガチャガチャいった。お出ましだ。
「いってらっしゃい」
「これね、この短く切って直したの、よせばよかった、短すぎちゃった」
ピンクのシャツが、背丈の小さい母には裾丈が長かったので切って自分でまつったのが、切りすぎでおかしくないかと気にしてる。
「いいよ、ちょうどいいよ、おかしくない」
「そう?でも、ほら、短すぎちゃって」
「かわいいよ」
今更、着替える時間もない。ここで「そうねぇ、ちょっと短いかな」と言えば乙女はきっと、今、着替えるだろう。
「そう?いい?」
「酔い止め持ったの?」
「持った。いってくる」
「楽しんどいで」
跳ねるように門を出て、手を降りながら出ていった。
やれやれ。家の中に入るとすぐ、今度は電話が鳴った。忘れ物でもしたのか。
「あのね、お姉さんの旅行の日程表、うちのFAXの上に置いてあるから、帰ってくる日と時間も載ってるから。家に居てやってね」
なんと。
姉は今、休暇をとって友人とオランダに行っている。母の旅行中に帰ってくるが、そのとき家に居て「おかえり」と言ってやってくれということで、かけてよこしてきたのだった。
「はいはい、しっかりチェックして家に張り付いておりますから、お任せください。楽しんどいで」
「ありがと、それじゃ」
お尻フリフリ、リュックを揺らして歩く姿が目に浮かぶ。