ど偉いおじさんに素人、語る
このブログを通して知った若き職人さんの合同展を観に寄ったのだ。
勝手に彼女の作品へのブレない情熱に惹かれ、知り合いの気でいるが、お会いしたことはない。
だけれど、熱。そう、生活を芸に捧げているようなまっすぐな姿勢だけはブログ越しにでもわかるのだ。
昨年、銀座で彼女の作品に初めて会いに行った。彼女は居ないことはわかっているのに展示会のあるフロアに降りると鼓動が高鳴った。
今日はもう少しリラックス。じっくりじっくり、図々しいほどに観て回る。
素人目に観ても、おおらかさの加わった作品たちは精度も技術も増している。若さっていい。ぐんぐんと伸びていくエネルギーと才能の塊。それに立ち会わせてもらえる幸福。
変に観る側への受けを狙っておらず、媚びていない凛とした感じがいいのだ。
いっつもブレブレで道に迷う私は、この清々しいほどの一途さが好き。
かがみこんで眺めていると、痩せた穏やかそうな紳士に話しかけられた。
「何かお気に召すものがありましたか」
私は嬉しくなって、眺めていたフクロウの箸置きを指差す。
これ、いいですね。愛らしくて。
「彼女は私のところに半年いたんですよ」
そうなのか。ぐっと親近感が増した私はつい、あれこれと質問をする。ここの薄い色とこっちの濃いところ、どうやって表現するんですか。何度か重ねるんですか。
紳士は丁寧に、説明してくれる。
「1300度の熱で焼かれてみないと、どんな色合いになるかわからないんですよ」
「それなら、納得がいかずボツにするものもたくさんあるんですか」
「そうですねぇ。そういうこともまま、ありますねぇ」
このおじさんの作品にはそう興味はないので、彼女の作品を並んで一緒にみる。
「ね、この表情、いいでしょう?」
「そうですね。技術もユーモアもあって、いいですね」
わたしが気に入ったという箸置きを褒めてくれると、そうでしょそうでしょと得意になる。
「これ、いただきます。三つだけなんですけど」
おじさんは私をレジに案内してくれた。
主婦の懐事情でたくさんは買えないが、また少し、彼女の作品を手に入れた。
最近、塞ぎがちな義父にプレゼントしよう。このフクロウの表情を見ていれば心も和むだろう。
彼女のエネルギーも届けたい。
帰りの電車の中でパンフレットをもう一度読み返していると、見覚えのある顔写真がある。
さっきのおじさんだ。
もんのすごく、偉い人だった。
天皇陛下の宮中晩餐会の食器を作ったり、天皇皇后両陛下の御門入器を作ったり。内閣総理大臣賞ももらっている九谷焼のトップもトップ、とんでもトップのお方だった。
そんな人とは知らずに彼女の作品を「いいでしょ。いいでしょ」と見せてきた。
天下無敵の世間知らずには怖れるものなどないのだった。