お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

食後のスイカ

一昨日の朝、大学に行く息子が怒って荒々しく玄関を出て言った。

「皮膚科に行こうかな」

「大丈夫だと思うけど、気になるなら行けば?」

「ほら、ここ、これミズムシかな」

「違うと思うけど。たぶん違うよ。でも気になるなら行けば?」

「どうしよう」

にゅっと目の前に指を近づけて動かない。鬱陶しいな。

「知らないよ、気になるならお医者さんに行けばいいじゃない」

これがお気に障ったようで、無言になってドカドカと二階に上がり、バタンバタンと物音を立てながら降りてきて、無言のまま「行ってきます」も言わずに出て行った。

あらま。

ちらっと横目だけで彼をみた。が、こちらをチラリとも見ずに門から出て行こうとしていたので、私も「上等じゃねぇか」と、いつものように窓に立って見送ることはせず放っておいた。

志望校や学部の変更など、人生の一大事は全部、自分で決めるくせに、どうして皮膚科に行くか行かないかを私に相談しないと決められないのか。

幼稚園の時、お受験をするかしないかで迷った挙句、息子に相談した。当時6歳の彼は「うちのクラスで誰が受験するの?」

と聞いてきた。

「幼稚園のお友達は誰もお受験しないよ。でもプレスクールのお友達はみんなするよ」

「じゃ、僕は受験しない。みんなと同じ小学校に行って、みんなが受験するときに僕もする」

即答だった。

答えの出ない難問を抱えていた私はあまりのきっぱりとしたその物言いで心は決まった。

小学校三年生になると、「塾に行きたい」と言い、4年になると「中学受験していい?」と言い、「僕は男子校」と志望校から滑り止めも先生と決めてしまった。

私はいつも屁っ放り腰でついていくばかりだったが、あれは息子なりに体力のない私を当てにするとは出来ないと悟っていたのかもしれない。

「ネットで見たら、これは放っておいたらいけないものらしい」

「あのね。自分の症状をネット検索する人あるあるだよ、それ。なんでもなくても重症に思えてきちゃうの」

「じゃあ絶対大丈夫と言う保証はあるのか」

「知らないって。だからいけばいいじゃない。お医者さんに」

頭にきて黙って飛び出した息子。その晩、いつもより少し早い9時に帰宅した。

「タダイマァ。これ、母さんにおみやげ。今朝ほどは癇癪起こして失礼しました」

イカにアイスクリームにおかゆ。食欲が落ちていたのを知っていたのか。

「これ水虫じゃないってさ。汗かぶれだって。わはははは。母ちゃんの言う通りだったな。わはははは」

ガーッと突然嵐がやってきて、過ぎ去っていったらポトっと美味しい木ノ実を落としていった。

「わーい。スイカ。食べたかったんだ。」

なんだか知らないけれど棚ぼただ。

ちょうど先に夕飯を食べ終わったところに届いた食後のスイカ

冷えてて瑞々しくてやさしい甘さが喉をつたう。