お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

笑の神様

息子が書類をたくさん持って今日、大学に行った。これで手続き完了し、晴れて新しい学科の生徒になる。

昨日、一昨日、合格が決まってから一悶着あった。

今回、この転科試験は母と姉には内緒にしていた。本人が落ちたらカッコ悪いからというので黙っていた。

それで合格した当日、報告をしに行ったのだが、そのとき母が息子に「相談に行った教授が根回しをしたおかげかもしれないから、お影様で合格しましたありがとうございますとメールを打っておきなさい。」と言ったそうだ。

母にしてみれば、試験受けて受かったから学科変えたよと聞かされれば、教授同士が承諾すればすんなり移動できる程度のことだろうと理解したのかもしれない。

しかし、当事者もそばにいた私も水面下でヒリヒリするような緊張した日々を重ねやっとの思いで願いがかなった。この数ヶ月の精神状態に大きなズレがある。

根回しという単語に息子は反応し、しょげた。まるでコネを使って潜り込んだくらいのことのように言われたことが悔しかったらしい。

いかにも母が言いそうな、やりそうなことだった。

「論文と成績と、全教授と学部長の前で面談したんだから根回しも何もないでしょう」

そう言ってみても、浮かれていた気持ちがしぼんだのを膨らませるのはめんどくさく、鬱陶しいほどの落ち込みようだった。

今日、生協の牛乳を母のところに届けに行った。

「孫君はメール、送ったの?」

いつもならヘラヘラ笑いながら「本人に任せてるから」とうやむやにするのだが、ちょっと踏み込んでみた。

「あのねぇ大変だったのよ。どういう言い方したかわからないけど、教授の根回しのおかげと言われて、自分の実力じゃないみたいに思われてるようで悲しいって。グチグチ私に八つ当たりが来て参ったよ」

母はきっと睨んで

「あら、私そんな言い方してないわよっ。ただ先生がうちの生徒なんですよ、よろしくお願いしますよって言ってくれたおかげかもしれないって言っただけよっ」

すごい剣幕で怒り出した。

「わかってるよ。だいたい。それでもしょげたんだよ。勘弁してくれよぉ」

「あら、それっぽっちのことで、そんな風にいちいち反応するなんて、あなたもっとおおらかにしないとダメよ、男の子なんだから、神経細すぎるのよ、あの子は」

ここから矛先は私に向かう。

「だいたいあなたが庇い過ぎるのよ。気持ちを汲んでやってりゃいいってもんじゃないのよ、これから、もっと強く図太く育てないとダメよ、あなたの育て方をなんとか考えないと将来困るわよ」

以前はこういう言葉を呪いのように受け取った。そして不安が私を襲い、落ち着かなくなり更に大きな不安となった。

「あたしゃもう、知りまっしぇーん。こっからは息子の人生だもん、あとはもう勝手にたくましくなっていくでしょ。あの頑固者、私の手には負えまっセーン」

笑いながら部屋を出た。

背後から「全くそんなだからあなたはいつまもダメなのよ」とかなんとか聞こえてきたが、私の心は爽快感が込み上げている。

笑いだ。大抵のいざこざは笑いに昇華できる。

家族の中のことなんて、深刻にならず笑って通り過ぎればどうってことないことばかりかもしれない。