やり手
新聞の勧誘が来た。
この前の配達所の人ではなく、そこの、もうひとつ上のバリバリやり手という感じの、それでも明らかに私より若い男の人だった。
ヘルメットをかぶり、カーキ色のジャンパーを着て早口にまくしたてる。上野でやっている古代エジプト展のチケットを「先日、3ヶ月間、購読ご協力いただいてありがとうございました。所長からお礼とのことで受け取ってください」ゴミ出し用の袋と、フリーザパックと一緒に渡された。
卑しいもので、展覧会のチケットに思わず手を伸ばす。
「それで、今は3ヶ月終わったばかりなので休憩したいと思うんですけど、夏頃、また朝刊だけ、あ、洗剤、どこ使われてます?銘柄指定いだだければ3ヶ月分、おつけしますんで、あと、無洗米も。その時にはもっと動物園とか美術館とかどんどんつけさせていただきますし。変な話、ぶっちゃけ、このチケットだって1500円くらいするんで。洗剤とか米とかつけたら実質、月の支払いとトントンくらいですよ」
今はいいから。夏前くらいにもう一度顔を出すからと何度も言う。
「とりあえず、明日にでも、さっきのマリーアントワネットの、持ってきますよ」
私に渡そうと思ったが持っていなかったチケットを、また明日持ってくると言う。
ポストに入れといてくれればそれはそれで嬉しいが、どうやら彼は明日また、インターホンを鳴らして手渡しにくるつもりらしい。
いかんいかん。この勢いに飲まれては危険だ。ここは断ち切らないと。
「待って。約束はしない。先の話でも。今日はそういうお話を聞いたってことだけで」
はっきり、そう言うと彼は「あ、そうスカ?」ピタッと話を止めた。
「じゃ、そのチケットも、またそのときにしますか?」
私の手元のチケットを指差す。
え?っと一瞬思った。だって古代エジプト展は所長からのお礼だって・・・いや、いい、いらない、いらない。
「うん、そうね。お返しする」
そうですねと彼は私の手からまたチケットを取り戻し、ジッパーのついたビニールのケースの中にしまった。
「じゃ」
そう言って、もう、この家には用はないと見切ったのか、スタスタと門の外に出て、バイクのエンジンをふかして行ってしまった。
そのあまりにもの素早い撤退の仕方におかしくなった。
彼は絶対やり手だ。