お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

漱石くん

新聞を読んでいたら、夏目漱石の恋文が見つかって、それが七日から都内の田端文士記念館で展示されると言う。

気の毒に・・・。

「ワタシワアナタヲ愛シテ居リマス」

まさか自分が死んで何年も経ってから作品でなくてこっちが、全国紙の新聞に載ってしまうとは思わず、書いたんだろうに。

この手紙のもらい主の妻とは、どちらが先に死んでも交わした手紙は棺に入れるよう約束していたのに、焼き残ってしまったと、記事にはあった。彼のだけが。

神経衰弱になってしまうくらい繊細で気難しかった彼がうっかり見せることなってしまった心のかけらを、私は見てはいけないもののように思いながらも読む。

あの夏目漱石だって、何かにすがりたい守られたい受け入れられたいという衝動に駆られていた。自分の中の柔らかいところをどうすることもできずにいた。

誰もがカタツムリの貝の中にひっそり抱えている何かがある。

そう思ったら「なんだなんだ、やっぱりそうなんだ」と気持ちが楽になる。

それでも、愛する人と一緒にいて、どんなに自分が幸せかと表現するのに「小鳥のように幸せです」と表す素直さ。漱石っつ。守ってあげたいっ。

彼の作品には出さなかった柔らかいところが田端で公開される。

気の毒にと、最初は思ったけれど、自分を丸ごとわかって欲しい、ともし彼が思って作品を書き続けていたとしたら、「よしたまえ」とか言いながら、来館する人たちに照れ笑いするのかもしれない。

「いい夢を見るおまじなひに そうっと 瞼の上を撫でてあげます」

ちょっと好きになってしまった。