お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

優しい子

ドトールに入ってコーヒーを頼んだら

「申し訳ありません。只今、ブレンドコーヒーとアメリカンコーヒーの機械がこわれてしまっていて、おだしできないのですが」

と言われた。

ここはコーヒー屋さんなのに、肝心のものが全滅なんて、どうするんだろう。昼時で混み合う時間帯、大変なことになってしまったなぁ。呑気に一瞬そんなことを考える。そうだ。私は何を頼み直せばいいだろう。カフェラテ系は医者に止められているし、紅茶という気分でもない。そうかといってもう、寛ぐ気満々なので店を出る気もない。ちらりとメニューのアイスコーヒーの写真が目に入ったが、寒くてこれもあり得ない。

「もしよろしければ、こちらの本日のコーヒー、プレミアムブレンドをご注文頂けると今でしたらブレンドコーヒーと同じお値段でお出しいたしますが」

ぼけっと固まっていると店員の若い女の子がそう付け加えた。

「あ、じゃ、それで」

本来なら30円高いヨーロピアンプレミアムブレンド。でもちょっと苦い。いつもの安い味が好き。

私の後からまたブレンドを頼む客が次々と出てくる。その度に彼女は同じ台詞を言う。

今日の朝からずっとこんな調子なのか、刷り込まれたように淡々と対応している。

生真面目そうなその子は申し訳なさそうに一人一人に事情を説明し、頭を下げて、怒りを買わないようになのかニコリともしないで客の反応を待つ。面倒臭いだろうに。彼女が壊したわけでもないのに。たまたまシフトがそこに当たってしまった。

寒い冬の日の昼ごはん、この店に来るというからには誰しも暖かいコーヒーを飲もうと思っているひとばかり。注文を受けるのは彼女一人。ほかのスタッフは裏でホットドッグやドリンクをセットしてトレーに乗せ「お待たせしました」と言って出し、店をでていく客に「ありがとうございましたぁ」と言うだけだから、ケロッとしている。

店を代表してずらっと並ぶ客に一人、謝り続けていた。

「申し訳ありません、今、機械が壊れてます。・・・他のものを注文していただくか、こちらでよければ別のものですがお出しできますが」

彼女の説明にバリエーションが増えた。

「あ、そ。じゃ、カフェラテで」

その女性はあっさり変更した。

ブレンドじゃないとやだぁって思うのが大半かと思っていたのは私くらいなもので、そう大したことでもなかったのか。

それとも、彼女の誘導の技か。確かにみんながみんなプレミアムブレンドにするよりは、いくらかでも通常メニューの中から選び直してくれた方が損は減る。

ところが次の客から、いつものあのまどろっこしい言い方に戻った。

するとまた、「え・・じゃ、これでいいや」とプレミアムに変更する人達。

なんかわかる気がする。謝り疲れるというか、何度も何度も同じ言葉で説明することに休憩したくなるというか。一時間に一回か二回、彼女は台詞と対応を変えてみるのだろう。ちょうど映画館でお行儀よく座っているのに疲れて座り直したりするときのように。

笑顔もないけれど、一人一人に毎回頭をさげて、彼女の今日はおわっていくのかなぁ。

はやくこの苦行から解放してあげたい。