お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

ピンク

長靴兼用になるスニーカを買った。

スニーカー専門店の店先に赤い文字で「防水用!!」と書かれたのが目に止まった。

お正月セールの残り物で1万2千円のものが七千八百円まで下げたまま、在庫も少ないので、値段を戻さずそのまま売ってしまおうということらしい。

ちょうどよかった。長靴を買おう買おうと思いながら、雨の日になって「買っておけばよかった」と悔やむ。しかしまた晴天が続くと、「何も今買わなくてもいいか。また今度にしよう」と出費をケチる。そんな状態がもう2、3年続き、騙し騙しでしのいできたが、明日は東京でも雪が降るかもしれないという。どこにも外出する予定はないので、靴は必要ではないが、靴がないから出られないのと、出ようと思えば出かけられるが、天気が悪いから出ないのとでは随分違う。

店員さんに頼んで自分の足にあうものを探してもらい、履いてみた。

知らないフランスのメーカーのその靴は、足首まで固定してくれて安定がいい。安売りの割にやたらと相性がよかった。ただ、色がビビットなピンク。蛍光ペンのあのピンク。一瞬迷った。靴紐を締めて鏡の前に立つと、グレーのコートに、黒いお財布ポシェットをかけ、黒いレギンスに黒いスニーカーだった私の足元が鮮やかなピンクになった。気恥ずかしいので、店員さんに「これ、おかしくないですかね、大丈夫ですかね、私みたいのがこんな可愛いピンク」と尋ねる。相手は売り手だから当然「大丈夫です。今、女性の場合、雨の日用の靴は長靴や傘と同じで明るい色が当たり前です」と勇気付ける。

私が気にしたのは「この歳で」という意味合いだったのだが、あまりの履き心地の良さに、即決して会計をした。

包んでもらって、黄色いビニールに入れてもらって手渡されるまでの間に、すでにホクホクしてきているのがわかった。この気持ち。この買い物は正解だ。よかった。

帰り道、袋をぶらぶら振りながら弾んだ気持ちでスーパーに寄る。いつもは重いからどうしようかと迷う根菜も牛乳も、どんどんカゴに入れる。そうだ、今夜は餃子にしよう。たくさん作って冷凍しよう。戻ってネギとキャベツをまた追加する。

喜んでいるらしい。私の中のお子ちゃまが。

重く膨らんだスーパーの荷物とスニーカーの袋を両手に下げて、どっちもブンブン振りながら歩く。

「明日、あれ履きたいなぁ。どっか行こうかなぁ。」

レインコートをはじめて買ってもらった幼児状態になっている。