つい、熱くなる
息子が暗い顔をして帰ってきた。
大学の帰り道、知り合い程度の友人に声をかけられ、転科してもその希望して行った先の教授陣は課題も評価も厳しいらしいよ、就職するのに入学してから学科を移動した経歴は不利になるってよとずっと、バスの後ろの座席から言われて帰ってきたそうだ。
「それで?」
「動揺するじゃん。」
「それでやめようかなって思うならやめればいいじゃない」
「いや、そういうことじゃない」
「じゃ、それは雑音でしょ。不快な音を聞きながら苦痛だったのは気の毒だけど、心の中に刻み込むことはないよ」
今ひとつ腑に落ちないようなのでまた、言った。
「もし、彼が本当に君のためを思って言ってるんだとしても、ここに至るまでの葛藤や君という人間が何に面白みを感じ、何を耐えられなくて、何に喜びを見つけるかなんて全く知らないんでしょ。この一年、数回会話を交わしただけで、君の何を知っているっていうの。彼はその数回でも親近感を感じてくれて、知っている情報は伝えないとって思ったから言っただけだよ。悪くもないし、自然だし、いい奴じゃない。拒絶することもないし、振り回されることもない。散々迷って、そんなことも百も承知で決めたんなら、たとえ、本当に転科試験に受かってその厳しい授業に面食らったとしても、あれだけ苦しんで決めたんなら、別の納得がいくと思うよ」
「だよな」
「あ、あと、今お母さんが言ったことは、息子の心にズカズカ入り込んで余計なこと言いやがってって、イラっとしたから、感情的になって言ってるところもあるから。
この発言にも振り回されることないよ。やめたくなったら、希望を取り下げたって全然構わないし、格好悪くもないからね」
母、つい、熱く語ってしまった。