母のタンパク質問題
昨日、祖母がお寿司8皿を平らげたという話に触発された母。
「私ももっと食べないと。タンパク質が足りないってお姉さんが言うのよね」
昼ごはんは一人だとクラッカーしか食べない。夕飯もとにかく簡単なものが増えてきたと姉が嘆く。
「私、食費入れてるのに」
相手はもう年寄りなんだから、会社の帰りに何かパンチのあるお惣菜を買ってくるとか、休みの日に作り置きをすればいいじゃないと言うと「働いて、出来合いのお惣菜なんて」と嫌がる。わたしもフライヤハンバーグなどをちょくちょく持って行くが、あまり出しゃばると、今度は母の方から「お姉さんの立場が悪くなるから」と言われてしまう。加減が今ひとつ、掴めない。それとなく夕方、様子を見にいって様子を伺い、弱っているような日は何か一品。そんな感じだ。
そんな母に祖母の食欲はいい刺激だった。帰る道すがら、タンパク質タンパク質と呟く。
「でもねぇ、お肉とか、買い物に出るのも億劫なのよね」
ニューヨークも体操教室もバーゲンも朝からハツラツと出かけて行くくせに、近所のスーパーがめんどくさいらしい。
「言えば買い物くらいいつでもいってあげるのに」
毎日、御用聞きに行ったとき「う〜ん、今日は冷蔵庫にあるものでなんとかするからいいわ」と言うアレは、食材があると料理をしなくちゃならなくなるからめんどくさいということだったのか。それならそう言えば持って行くのに。よくわからん。
「ラジオで魚の缶詰とか置いておくといいて言ってたよ」
私の負担になりたくないのならとアレコレ思いつくまま言った。
「うなぎのレトルト買っておくとか。あ、煮豚、作って持ってってあげとこうか。あと、お米炊くとき、一緒に卵をアルミホイルでくるんで入れてゆで卵作っておくとか」
「そうねぇ。お姉さんがねぇ」
姉受けのする料理でないとならないらしい。基準として。
「じゃぁフライとかあげた日はこれから持っていってあげるよ」
「あなたなんかあてにしてないわよ。そんないつ倒れるかわからないような人に」
く〜っなっまいきな。まだまだ枯れてない。
しかし、わかっている。これは照れ屋の母が精一杯、私を庇っていると。
「あ、やめた。よそう。やばいやばい、せっかく弱って大人しく老人らしくなってきたのに、元気になっちゃう。いいのよお母さん。毎日おかゆでも。」
笑いながら言うと、これが気に入ったようで
「みんなに言ってやる。娘が言うのヨォ。お母さん、おかゆだけ食べてなさいって。お肉なんか食べちゃダメって」
「当たり前じゃない。これ以上パワーつけられたらたまったもんじゃない」
背中に夕焼けを背負ってゲラゲラ笑いながら家までの道を歩いた。