里芋と小豆
ユミちゃん(母)が今度は里芋と小豆を持って来た。
「私、こういうの好きじゃないのよね。もらったんだけど。」
泥付きの立派な里芋の入ったビニール袋をぶら下げて差し出す。昔は里芋とイカの煮たのが得意でよく作っていた。あれは父の好物だったからなのか。
「小豆、お汁粉にしてあげようか?」
外出すると白玉ぜんざいとか、みつ豆でなく、餡蜜を注文する。お汁粉も私が子供の頃、冬休みのオヤツに時々作ってくれた。
「あら、そう?」
「お砂糖入れないでおいて渡そうか、小分けにして煮物とかにも使うこともできるし」
そういうと、即答。
「いいわよ、味、つけておいてよ。お汁粉でしか食べないし」
あの、私に厳しく、家事には手を抜かず、冷凍食品を一切使わなかった母の老いを感じる。そして、私はそれが嬉しい。
やっと、母は私に自分の本当の無理のないところを見せ始めた。
建前でなく本当の姿はこんな人だったんだと今更ながら思う。
あの、私が恐れ、尊敬した全盛期は、突っ張っていたのだろう。父と姑に対して恥ずかしくないよう、いい嫁、いい妻でいないといけないと、視線を意識してずっとやってきたのだ。
最近、日に日に子供に戻っていく。今はちょうど、中学生の女の子のようだ。
高校1年の時、父親を亡くし、今ホームにいる101歳の祖母が働きに出て、母が弟ふたりの母親役と家事をこなした。そして結婚してからもずっと自分を押し殺して生きてきた。
人生の最後、今日は体操、今日はお芝居という日々があってよかったね。
お汁粉くらい作っちゃろう。
たくさんのワガママをおやり、おやり。
めんどくさくない範囲で、私も無理せず、あなたが死ぬまで付き合うよ。
・・・まぁ、長生きしそうだけどね・・。