お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

浮かれる

息子が母の掃除機浮かれに間に合うように帰ってくるわけもなく。

そりゃそうだ。大学生男子が学校終わってまっすぐ帰宅なんかするわけない。

いそいそ、私は新しいマシンを手に、試運転に取り掛かる。キュイーンというこれまで使っていた弱っちい音でなく、ギューともゴーとも違う、でも頼もしい低い音。

まずは板の床から。カーペットの方がきっとたくさん埃があるので、いきなりそこはやらない。お楽しみは最後に。

さっき雑巾掛けをしたのに、やっぱり小さな小さな粉屑がうっすらプラスチックのカップの底に積もっていく。ふふふ。こうでなくちゃ。

自動モードというのがあって、それにしていると、時々「ゴミ発見!」と認識した途端赤いランプを点滅させ、さらに大きな音とパワーで頑張る。それもかわいい。

お楽しみのカーペット。朝、従来使っていた掃除機で一応かけたので、よくあるテレフォンショッピングの紹介vtrのようにちゃんとゴミは取れるだろうか。

綿屑がダストケースに小さなお団子になって溜まった。

こんなに採れた。まるで山菜か何かを収穫したかのように一人ニンマリする。

もっといろいろやりたい。

付属品には枯葉やサッシのゴミを拭き飛ばすブロウとかいうのもあるし、布団用のヘッドもある。

もっとやりたいと思うところでやめる。明日のお楽しみにとっておく。

台所の隅に壁からかけて設置した。これで不器用な私も料理をしながら野菜くずや鰹節や海苔を切る時の粉や調味料を気にしないで、作業できる。気をつけてもなにかしら床におっこどしているので、これまでは最後に必ず雑巾掛けをしていたが、これからはいつでもスタンバイしてくれているので気持ちが楽だ。

 

7時になって息子から電話が入った。

「ライン入れたんだけど、見てない?」

見てないよ、こっちは夢中なんだから。

「ごめん、なに」

「渋谷に寄ってるんだけど探してる本とCDが見つからなくて、あと払込もするからまだ遅くなる」

「わかった、先食べてるから」

「うん」

「あ、あんまり遅くならないようにね」

いつも言ったことのないセリフをつい言った。

「なんで?明日午後からだよ」

「いや、ちょっと今、掃除してて、主婦モード入ってまして。なんか母親っぽいこと言ってみたかっただけ、あんまり深い意味はない」

「ふーん、じゃ」

浮かれる母なのであった。