お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

再構築

息子の帰りまで、まとまった時間ができたから祖母のところに行こうかと浮かんだが、エンジンがかからず、また、ダラダラ過ごす。

届くようになった朝刊とその折り込みチラシ、区報を、じっくりみる。

そうだ。私は子供にころ、こうやってチラシから妄想の世界に行くのが好きだった。

家具屋のベッドやソファや書斎机やランプを自分の家にどう配置するか考え、不動産のチラシでは高級住宅街の間取りで自分ならどこに住んで、どう家具を置いて、自分の部屋はここ、などと夢見た。

母が、来た。最近、よく、来る。私の中の固く尖ったものが緩んできているのを敏感に感じとっている。さすが、母親だ。

 

この前、二人でお茶を飲んでいたときに、ついに私は言ったのだ。

「愛情と油断とおおらかさからのことだったと、今ならわかるけれど、バカとか焼く立たずとか、お姉さんと比べてどうしてこんななっちゃたんだろうとか、言われるたびに子供の私は、やっぱりまっすぐ耳と心に刺さって残ったよ。」

それで自信を無くし自分を嫌いになってずっと辛かったとまでは言わなかった。

「あぁ、ダメね。私は。」

母がそう言った。別にしんみりもしていない。ただの相槌のようにさらりと受け流されたけれど、そう言った。勝気の彼女がダメだったわねと承認したのだ。

もう、これで充分だ。

全て終わりのときじゃない?今。私の中で。

もう、昔のことはおしまい。

新しい関係を再構築するときなのだ。お互い立場も経験も変わった。きっぱりした関係でいたいが、相手が老いていくのを感じると、柔軟な柔らかい関係になっていくのが自然かもしれない。

 

ひとしきり、友達と親戚の悪口とゴシップを話し帰ったと思ったら、またすぐに明後日から行く旅行の服装を取っ替え引っ替え見せに来る。

「リュック、こっちに移そうかしら、どっちがいい?」

一度荷造りの出来上がったものから、また別のに入れ替えようかと背負って言う。

「もう、入れ替えるときにチケットや何かうっかり入れ忘れたら怖いから、そのままにしとき」

「そう?そうね。じゃ、そうする。」

オヤツに持って行くお煎餅までリュックを開けて見せる。

私が強固な壁を築き上げ、ビビって閉じこもっているあいだに母も老いたんだな。

ひとつ、ひとつ、肩の荷が降りて、いま、彼女は一番素直で無邪気なのかもしれない。