ただの毎日の中で。専業主婦の 平和すぎる日常

自分の思っていること、ちょっと引っかかったこと。誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

おばあちゃん

とんちゃんは朝起きると、そーっと台所の横の畳の部屋をのぞいた。

いつもはお母さんがミシンを踏んでいる部屋に今日はおばあちゃんが寝ている。

昨日、泊まりに来たのだ。吉田のおばあちゃん。そう呼んでいた母方の祖母。電車で二時間離れたところに一人で住んでいる。半年に一回、本当にたまにしか来ないから、とんちゃんにとっては一大イベントなのだ。この時ばかりは友達の誘いも全て断り、家にべたっと張り付いておばあちゃんのそばにいる。

とんちゃんは、いつものように、「おばあちゃま、起きてる?」と声をかける。

「起きてるよ。どうぞ」

そう言われ、そそっと中に入り、布団の中に潜り込む。あったかい布団の中に入れてもらって、お話を聞くのが好きだった。

祖母のお土産はいつも、子供の好きなものを持ってくるのがうまかった。

工場ででた、廃棄するB4の無地の紙をもらってきて、一つ一つ、半分に折りたたんでバインダーに閉じ、姉と私にそれぞれノートみたいにしてくれたもの。端切れで作った黄色いウサギのぬいぐるみとその着せ替え。庭で積んだ野菊をブーケみたいにしたもの。どれも「うわぁ」と叫びたくなるものだった。

「こんなガラクタばっかり」

と母は言うのだが、とんちゃんは「今日は何だろう」と楽しみだった。

「おばあちゃん、今日、何時までいる?」

「そうねえ、お昼過ぎには帰るかな」

「私が帰ってくるまで、いる?」

「そうねぇ」

「いて。私、早く帰るから。待ってて。帰ってくるまで待っててね」

これがお布団の中でのいつものお約束だった。

学校が終わって、すっ飛んで帰る。まだおばあちゃんがいるか、それだけを祈るように思いながら走る。

「ただいま、おばあちゃんは?」

母の声で「もう帰りましたよ」と聞くとき、がっかりする。

「おかえり」ケラケラ笑いながら祖母が現れるときもある。

今日はどっち。今日は間に合う?

帰っちゃったかな。いるかな。いますように。神様、おばあちゃんがまだいますように。

今、とんちゃんは老人ホームに行く。

覚えてるかな。わかるかな。今日もおばあちゃんが私を覚えていますように。忘れていませんように。

「あら、いらしゃぁい」

100歳になったおばあちゃんは、両手をパァにして上にあげ、今もケラケラ陽気に笑って私を出迎える。