予行演習
私は頑張らなくても、価値がある。
そう、勝手に決めた。まだ、どっかで、「どうかな、そんなに不遜な考え、私ごときがしていいのかな」と揺らぐ。
でも、多分、そう。存在しているだけでいいんだじゃにかな。
楽しそうにしてれば。
いや、楽しそうじゃなくても、もがいていても、やっぱり存在している、だけで何か違う空気を作り出しているんじゃないかな。いいとか。悪いとかの存在意義じゃなくて。
ただ、居ること。それだけでいい。
疲れてくるとこんなことを思う。
不意に髪を切りに行きたくなった。いつもは髪が伸びて不恰好になってきても
「今は痩せちゃってるから」
「疲れてうまくおしゃべりできないから」
なんて思って、予約するのをためらっていた。私にとって美容院に行くというのは相当エネルギーを要する。できるだけテンションを上げ、お店の人に失礼にならない程度に身ぎれいにして行く。話しかけられたら、陽気にサービス精神でおしゃべりをする。
・・・よく考えたら。癒されたいときに行きたくなるのに、なぜ消耗するの。
そうだ。こういうところも、少しづつ、変えてみよう。
そんなに頑張らなくても大丈夫。間の悪い返事でも、ずっと目を閉じてても、雑誌読んでても。格好も、普段のまんまでいい。そんな、いちいち、素敵な奥さんぶらなくっても。ちょっと変わった、力の抜けた、そういう人なんだなってことでさ。
などと、カレーを作りながら、ムラムラと思い始めた。
よし。今だ。
火を止め、すぐにインターネットでいつも行ってる近所のお店の空き状況を見る。
今は2時。ちょうど2時半からの枠が空いてる!
一瞬、怯んだけれど、自分を励ます。予約を入れて、すぐ、家を出た。
なんだ、こんな簡単なことか。
自分が大きな変化を遂げているような高揚感で道を急ぐ。
お店について、ドアのガラス越しに中を覗いた。店長と目があう。
「いらっしゃい。どうする?予約する?」
意味がよくわからない。今さっきネットで予約したから、まだ彼女は把握してないのかな。
「あ・・あの。さっき。パソコンで予約を入れたんだけど。今日、今の時間に」
「え?今日はいっぱいで入る枠ないはずだけど・・・あ。明日、明日入ってる。2時半。18日、木曜。明日だよ」
え。恥ずかしいのと、勢い込んだとこからのがっかりと、あぁまた、やっちゃったという思い。
ごめんなさい。と謝って店を出た。
今日のは予行演習。そういえば、髪ボサボサで、ほぼすっぴんで、ジーンズに夫のおさがりのヨレヨレのトレーナーで行ったけど、店長さんはいつものように迎えてくれた。
明日は、ちょっとドキドキしないでいけそう。