お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

夜中のメンテナンス

昨日の夜。10時半にベッドに入り、夜中に喉が渇いて目が覚めた。

夜中だと思っていたのは、12時。息子はまだ部屋で起きている。

一階に降りて水をコップ3杯、一気に飲んだ。おかしい。こんな飲み方、普段しない。足がなんかもつれるような、痛いような。これが噂の熱中症

そういえばこの所、体がだるくてだるくて、エンジンがかからない。慢性化している脱水症状?

私の体の特徴として、自分の不調を脳が把握できないというのがある。疲れていたり、痛かったり、しんどかったりするのを、我慢する癖が付いていて、もはや、どこから不調というのか、どこから休んだらいいのか、わからない。

これは子供の頃から大学病院に通ったりしているうちに、風邪でしんどいのか、自分の体が弱いからしんどいのかわからなくなってしまったというのと、ダウンすると、「ちょっと何かすると、すぐダウンする」とため息つかれるのが嫌で、不調を隠す癖がついてしまったのとの影響だろうと入院したとき教えてもらった。

台所に座り込み、水を飲んでいるあたりでおかしい。立っているのがしんどいのだ。

・・・・。何か食べてみようか。

深夜にごそごそ、冷凍バナナを半分、食べてみる。びっくりするほど、脳が冴え渡る。

チョコレートも食べてみる。頭がホッとしてくるのがわかる。そうか。低血糖なのか。

夏バテにならないようにしっかり食べていたつもりだったが、昨日、一昨日と寝不足だったり、芝刈りしたり、運動量が多かったのか。あ、そういえば、昨日、お腹が緩かった。疲れてるということ?

もう少しチョコレートをかじって、甘辛いおせんべいを二枚食べた。

寝よう。

心と頭がホッとしてるのがわかった。

ごめんごめん、疲れて足りてなかったんだね。身体と脳がやりとりしてる。

夜中の台所に座ってムシャムシャ。ムックと立ち上がり、歯を磨いて、寝た。

水分か糖分か。どっちだったんだろう。

今朝はびっくりするくらいフットワークが軽い。

 

 

ありがとう

昨日息子がサークルで11時に帰宅した。それに付き合って起きていたので私も寝たのが12時だった。そして今朝、息子に起こされた。

「おはようございます。四時半です。ご飯、あるでしょうか」

昨晩、夕方に先輩の差し入れで食べたカツサンドがお腹にたまっているので夕飯をいあらないと言って寝たので、空腹なのだろう。朦朧とした眠気の中から反射的に飛び起きる。

「全くさ、アルバイトの朝は僕が勝手にやって出て行くから、母さん寝てていいよって言ってたのはなんなんだ」

「そんなこと誰が言ったんだっけ」

「オメーだよう」

こんな軽口を叩くことができるようになった息子との関係。そして、叩き起こされてすぐ起き上がって台所に立てるようになった自分。

この一瞬の時間が。

こんな時が。

ありがたい。

 

ぞうさんの口

昨日、塗り絵をしながら思い出した。黙々と鉛筆を動かしていると、思いがけないことを思い出す。

息子がまだ幼稚園だった頃、お受験を考えている友達のママにお絵かき教室の体験に一緒に行ってと頼まれた。

無料だというので、気楽に息子を連れて彼女の息子さんと四人で行ってみた。

手ぶらでよいと言われて教室に入ってみると、小さな子供用の机の上にプリントと色サインペンのセットが置かれていた。

「くまさんの描き方を説明します。」

先生は、幼稚園の先生みたいに、「は〜い、いいかな?よく見ててね」なんて言い方はしない。大人と話すように話しながらホワイトボードに描き始めた。まず、頭を描いてください。お時間がなくなってしまったとき、頭がかけていれば、だいたいわかります。受験会場での心得を挟みながら教えるのは、私が思っていたお絵かき教室とはだいぶ違った。

「では。今度はみなさんに描いてもらいます。今言ったような順番と、気をつけるところを注意して、そこの紙とペンを使って象を描いてください」

息子の顔は固まっている。大丈夫か。わかっているのか、言われていること。大丈夫か、息子。

親はそばに行ってはいけないので後ろから眺めているしかないが、この空気に息子が呑まれるいるのは明らかだ。頑張れ。なんでもいいから描いてくれ。

先生が教室を歩きながら一人一人の絵を覗く。

すると、息子のところで立ち止まり、しゃがんだ。

何か話している。息子は何度も頷いている。

何だ。何を言ったんだ。何を言われたんだ。

「はい、やめ」

またホワイトボードに戻った先生が言った。

「大事なことを言うのを忘れていました。頭から描きますが、動物を描くとき、口は書かないでください。特に、こういう、三角のお口、これは絶対やめてください」

あ。息子だ。息子は馬でもウサギでもクマでも犬でも必ず、にっこり笑ってる口を入れる。それを見て我が家では「あらぁ、クマさん、笑ってるのねぇ」と喜んでいた。いけないのか。口はいけないのか。

「動物の口は、人間と違います。みんなは本物みたいなものはまだ描けません。だから、描かないでください。人間につける口みたいのはおかしいからやめてください」

息子はうつむいている。私は腹が立って腹が立って、息子を抱きしめてやりたくって、彼の背後でかっかしていた。

「みなさん、さようなら、ありがとうございました」

すぐ、駆け寄った。すぐ、言った。

「あれ、違うからね。いいんだからね。口、口。描いていいんだよ。ここは、試験を受けて小学校に行く人達の特別なやり方を教えてくれるところなんだよ。だからああ言ったの。本当は、いいんだよ、口。描いていいの」

息子はすごい剣幕で言う私にびっくりした顔をして、そして私の目を覗き込んでこう言った。

「僕、お受験、することになったの?」

この表情を見て私は自分の浅はかさを、やっと理解した。受験する気もないのに連れてきた私が悪い。先生も誰も悪くない。私が。私が軽はずみだったのだ。

「しない。しないよ。ごめんね。もっとお遊びみたいのかと思ったの。間違えちゃったの、お母さん。ごめんね」

 

あの、教室の一番後ろの席でうつむいて固まっていた息子の姿が、なぜか急に思い出され、また、苦しくなったのだった。

塗り絵をしながら、4歳の息子に心の中でもう一度、謝りながら色を塗る。