チェンジ
美容院に行った。中学生の時からずっと成人式も卒業式も成人式も結婚式もお世話になってきた人がいる。その人に不意に会いに行きたくなったのだ。
退院してから体力的に電車に乗って外出することは激減したため、ここ数年は近所の美容室を転々をしてきた。そのため、ずっと無難なボブにしてもらっていた。
彼女に会いたくなったのは、実家に里帰りをしたくなったのと似てる。
私は里帰りがない。隣に実母は住んでいるけれど、近すぎる。
精神的距離も近すぎる。
誰かに無防備に「あのねぇ」って言いたくなったのだ。
久しぶりに会った彼女は鏡越しに私を見るなり、ニヤッと笑い、「その後、どう?」と髪を触り始めた。私も、懐かしさから、息子の受験のこと、入院のこと、単身赴任騒動のことを一気に話す。
はっと気がつく。そういえば髪型をどうするかって言ってなかった。と、同時に鏡にどんぐり坊主が映っているのに気がつく。
いつもお任せで切ってもらっていたのをすっかり忘れていた。
彼女は迷いなくバッサバッサとハサミを入れながら私の話を聞いてくれるのがいつものことだったっけ。そうして、いっつも、切られすぎた!って慌てて、しばらく気に入らなくて、シャンプーする度にドライヤーと格闘するんだったっけ。気が付いたら鏡の中にいるのは高校生の頃の頭をした48歳の私だった。
「いいでしょ?どう?やっぱりこれくらいがいいよ」
どうって、もう切っちゃったじゃん。
でも、いいかもしれない。うじうじして生きていた私が選んできた無難な髪型から激しくぶっ飛んだ、ベリーショートにされてしまうと、ついでにこれまで染み付いてきたものの見方や考え方、習慣、常識みたいなものまでついでに切り落としちゃっていいかという気になる。
電車の窓でどんぐりの頭を見たとき、何か大きな鎖から切り離してもらったような爽快感で久しぶりに一人、ニヤッとした。
不安の内容を明らかにすれば大丈夫
単身赴任が決まってモヤモヤと頭を覆うものの正体はなんだ。
夫不在の不安ではない。私は人とどこかズレているのか、防犯や息子の生活、については恐れが無い。全くない。
では、なんだ。
まずはお金。短期間に小世帯の生活様式を整えることにどれだけかかるんだ。二重生活というのはどれほど負担がくるのか。息子の学費を払いつつ、ごく普通の生活をしていくことが貯蓄だけで潤沢に補えるのか。私が働けない身体なので不安はやはりそこ。在宅でできる仕事といっても、大きな戦力にはならない。特に私は。
それと、何を準備したらいいのか。どこにいって何をすればいいのか。 荷造りの中身、手順、購入しないといけないもの。。。落ち度があってはならないもの。
もともと、こういう事務能力が無い、一番苦手な分野なだけに、ひっそりパニックになっている。
不安の正体を暴こう。
一人ドトールで単身赴任の心得をネットやブログで検索した。
当事者、経験者のアドバイスや、取り敢えずこれだけは揃えようといったものをまとめてくれてあるサイトをみつけ、メモする。
そうか。単身赴任手当ってものがあるのか。
食器類は100均でいいのか。なるほど。
ホームセンターでカーテン、布団、トイレットペーパーを買って現地に送るのね。当日、トイレットペーパーが無いというのは悲劇なのね。
やるべきことのこれだけは!がはっきりして、かなり前向きになった。
やるわ。ワタシ。ブンブンっと小さくエンジンがかかった。よし。もう大丈夫。
それにしても、自分の全身麻酔の手術は即断即決でなんの不安も迷いもなくちゃっちゃとできたのに。
そして、相変わらず、学生時代の参考書と同じで、これだけやっときゃ大丈夫っていうのにすがる私。
元気になったなった。
三人の新生活が始まる
旦那さんに転勤辞令が出た!
東京から滋賀県に。単身赴任。
死んじゃうわけじゃないし。息子も大学が決まったところだし。
大したことじゃない。
・・・って思うんだけど。落ち着かない。
この知らせを聞いて、息子が何度も私に「大丈夫か?落ち込んでるか?」と言ってきます。
「動揺してる。けど、落ち込んではいない。心配もしてないけど衝撃だわ」
私が頑張る必要はなくて、じっと流れに任せてみよう。
きっとこういう大きな動きがあるときは、いい方向に変化していく力が働いている。そんな気がします。運命の力。天の力。
あ。違う。そんなふうに、力を入れて受け入れようって頑張るんじゃなくて、淡々と生活をしていけばいいんだっけ。
物事に意味はない。ただ、起きてるだけなんだった。
四月からそれぞれの新生活。
ちょっとワクワク。ちょっと不安。
私、大丈夫かなぁ。
不良になったらどうしよう。